リハビリテーションという言葉を聞くと、一般的には『機能回復訓練』(筋力トレーニングやストレッチ等)をイメージされる方が多いのではないでしょうか?
リハビリテーションという言葉を聞くと、医療介護従事者であれば専門職とされる『理学療法士』『作業療法士』『言語聴覚士』をイメージされる方が多いのではないでしょうか?
今までもこのブログの中で発信して来ましたが、機能回復訓練はリハビリテーションを支援する為の1つのツールでしかありません。
リハビリテーションとは何かを理学療法士として考えてみたブログは↓
そして、リハビリテーションは専門職だけが支援するものではありません。
対象者が望むその人らしい生活を実現する為に関わる全ての取り組みはリハビリテーションなんです。
要するに看護師も介護福祉士も管理栄養士もご家族も、対象者を支える全ての人達はリハビリテーション従事者なんです。
リハビリテーション専門職という言葉が好きではないという事をまとめたブログは↓
今回は3つの異なる視点から対象者に対して働きかけ、見事にリハビリテーションを支援している取り組みを動画付きで紹介させて頂きます。
廃用に着目せよ~自立支援介護を通じたリハビリテーション~
1つ目は株式会社ポラリスが実践している自立支援介護。
私が知る限り、日本で1番利用者を介護保険から卒業に導いている通所介護です。
簡単に解説させて頂くのであれば、要介護高齢者の脱水と低栄養を補正しながら、利用者さんの意欲が高まる様な環境を作り、Pウォークという歩行に特化したマシンとパワーリハを併用しながら運動する。
それを徹底してスタッフに教え込み、基本的には看護師と介護職の力のみで日本で1番の卒業者数を生み出しています
多くの利用者が改善する1番の理由は疾患ではなく『廃用』に対してアプローチしているから。
廃用とは『使わない事により弱っている部分』なので、栄養を確保した上で活動量を向上させる(使う)事で改善して来る訳です。
例えば、パーキンソン病で考えてみましょう。
パーキンソン病は進行すると転倒しやすくなるのですが、転倒を恐れて臥床時間が長くなると当然ながら廃用は進行します。
廃用が進行すると足の支持する力が弱る為に、ただでさえパーキンソン病の影響で前に出にくい足が余計に出にくくなります。
その結果、小刻み歩行(小さな歩幅でしか歩けず、一歩もなかなか出ない)は強くなるのですが、廃用に対してアプローチする事で足の支持性が向上する→片足で体重が支持しやすくなる→足を前に出しやすくなるという変化が起こります。
結果的にパーキンソン病は改善していないのですが、小刻み歩行は改善する(本来の能力に戻る)事に繋がる訳です。
初めてポラリス代表取締役の森剛士先生の講演を聴いた時はいい意味でも悪い意味でも衝撃を受けた記憶があります。
専門職という名前の上に胡坐をかいていると私達はいらなくなるんじゃないかと真剣に感じた瞬間でした。
多くの療法士だけでなく、思う様に機能が改善して来ない高齢者にも知ってもらいたい取り組みです。
ポラリスの新たな取り組みとして、広島と鹿児島で介護保険事業を運営されている株式会社と業務提携し、新たに自立支援型デイサービスを立ち上げ、その過程をYouTubeで流すという斬新な取り組みもスタートされています。
通所介護の運営に興味のある方は是非参考にしてみて下さい。
出来る事を奪わない~自立を支援するリハビリテーション~
2つ目は神奈川県藤沢市にある株式会社あおいけあが実践している自立支援。
あおいけあは映画『ケアニン』のモデルになった施設であり『あおいけあ物語』として漫画にもなっています。
あおいけあの代表である加藤忠相さんの事を初めて知ったのはNHKプロフェッショナル仕事の流儀。
番組を見て、すぐにSNSで加藤さんの事を調べた記憶があります。
あおいけあでは認知症高齢者がお茶を入れ、料理をし、タイヤ交換もすれば電気ノコギリで木を切ったり、ペンキを塗ったりもします。
『認知症なのに危ないじゃないか』と思われる方もいる事でしょう。
例えば60年間家族の為に台所に立ち続けた認知症の女性がいたとします。
仮に認知症になったからといって、急に包丁を振り回したり、何も出来なくなるのでしょうか?
少し手順や調味料を間違う事はあるかもしれませんが、そういった部分のフォローをスタッフがさりげなくされています。
一般的な通所介護の様にお風呂に入る時間やレクのタイムスケジュール等も決まっておらず、お風呂に入らない日もあれば、利用者さんが入りたいと思った時に入るといったスタイルだそうです。
少し話がずれましたが、利用時にはみんなで一緒に体操しましょうといった感じではなく、生活する中で出来る事は本人にしてもらう事で活動量を保ち、身体機能の維持・改善を図るだけでなく、自己肯定感も高まっているのかもしれませんね。
あおいけあではスタッフは『ありがとう』を言われる存在ではなく、むしろ『ありがとう』を伝える側になっているんです。
自立支援は字のごとく『自立を支援する事』
そう考えるのであれば、出来る事は出来るだけやって頂くというのが正しい関わり方ではないかと私は思います。
自立支援を意識した関わりもとても印象的なのですが、あおいけあはその人らしい生活を支援する事をとても大切にされています。
例えば、利用者さんのお孫さんが今日近くで野球の試合があるらしいという情報を得たら、車の調整をして、見に行ける様に調整されます。
羊羹を作るのが得意な利用者さんはあおいけあを利用中に羊羹を作り、当時敷地内で運営されていた珈琲屋さんで販売する事で収益を出されていました。
他にも動画の中でも出て来るしげさんという男性の話はとても印象的でした。
末期癌で余命宣告されている中、どうしても温泉旅館(しげさん自身が宿を指定されたそうです)に行きたいというしげさん。
『家族の了承も得たので、迷惑かける(道中で急変する可能性もある)かもしれませんが行って来ます』というスタッフからの連絡に『気をつけてね』と送り出す加藤さん。
実際に温泉に何度も入り、普段食べれない食事をバクバク食べて帰って来たそうです。
その旅館はしげさんにとって思い出の旅館だったそうです。
正直、こういった関わりが出来る施設は日本においては圧倒的少数派だと思います。
少なからずリスクは伴います。
ですが、高齢者と関わる以上、0リスクなんて事はあり得ないですよね。
余命宣告されている中で『温泉旅館に行きたい』という希望を叶える事はACP(アドバンスケアプランニング)を支援するであり、リハビリテーションではないかと私は考えます。
ただただ『理想的ですね』で終わらせるだけでなく、全ては難しくても少しでも患者さんのリハビリテーションを支援出来る理学療法士でありたいと強く考えさせられた取り組みでした。
寝たきりの先を作りたい~ロボットを活用したリハビリテーション~
3つ目は吉藤オリィさんが実践しているICTを活用したリハビリテーション。
少し前のブログでも紹介しましたが、OriHimeを活用した分身ロボットカフェDAWNで実践している取り組みはリハビリテーション以外のなにものでもないと感じています。
OriHimeを活用したリハビリテーションについてまとめたブログは↓
寝たきりでも働く事が出来る。
働く事で我が子や親にプレゼントを贈る事も出来る。
発語が出来なくなっても、手が動かなくなっても意思表示する事が出来る。
意思表示が出来る事で自分らしい選択を出来る事に繋がる。
選ぶ事が出来る、それも1つのリハビリテーションだと私は考えています。
日本において平均寿命は延びていますが、健康寿命との差は縮まっていません。
という事は私を含め、多くの人が老後のある程度の期間を寝たきり状態で過ごす可能性がある訳です。
そんなに先ではない未来には高齢化が進み、介護の人手不足もより深刻になっていく事でしょう。
吉藤オリィさんが動画の中でも話されている様にOriHimeの様なロボットが更に進化し、自分の身体を自分で介護する様な時代がやって来るのかもしれませんね。
思う様に身体が動かない状況になったとしても自分らしく生きていける。
それが実現出来れば、究極のリハビリテーションなのかもしれません。
今後も注目していきたい取り組みであり、分身ロボットカフェには是非一度足を運んでみたいものです。
まとめ
今回は療法士がいなくてもリハビリテーションは支援出来るという事を3つの異なる取り組みを通じて紹介させて頂きました。
個人的にはこういった取り組みを『チームの誰かが知っている事』がまずは大切かなと思っています。
チームで多職種でリハビリテーションを支援するにあたって、どれだけの選択肢を提示出来るかは重要なポイントになって来ます。
患者さん、利用者さん、ご家族の為に常に情報にアンテナを張り、頭の中をアップデート出来る環境を整えておきたいものですね。
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