入院患者の転倒を100%防ぐ方法はあるのか?~県立西宮病院の損害賠償判決から考える~

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答えから書かせて頂くと、入院患者さんの転倒を100%防ぐ方法はあります。

ベッドから動けない様に抑制をして、365日24時間臥床しておいてもらえば良いんです。

ですが、それはあまりにも非人道的かつ現実的ではないですよね。

今回は1人の病院で働く医療介護従事者として、この機会にどういった対策なら出来るのかを考え直してみたいと思います。

県立西宮病院の転倒事故に対して兵庫県に532万円支払い命令

令和4年11月1日に神戸地裁で行われた損害賠償に関する裁判については↓

県立西宮病院で認知症患者が転倒、重い障害「転倒の恐れ予見できた」 県に532万円支払い命令 神戸地裁
 兵庫県立西宮病院で2016年、認知症患者の男性=当時(87)=が廊下で転倒して重い障害を負ったのは、看護師が転倒を防ぐ対応を怠ったためとして、男性の家族が兵庫

簡単に解説させて頂くならば、入院中の認知症患者の男性(当時87歳)を看護師が介助でトイレ誘導した。

看護師は男性が用を足す間に、別室患者に呼び出されて、その患者の排便介助に対応。

男性はその間にトイレを出て廊下を1人で歩き、転倒して外傷性くも膜下出血と頭蓋骨骨折のけがを負った。

男性の家族は、廊下で転倒して重い障害を負ったのは、トイレに連れて行った看護師が転倒を防ぐ対応を怠った為だとして、病院を運営する兵庫県に対し、約2575万円の損害賠償を求めて訴訟を起こした。

その結果、裁判長は『転倒する恐れが高い事は予見出来た』として、約532万円の支払いを命じた。

この判決に対して、2ちゃんねるの創設者で実業家のひろゆきさんが投稿したツイートが話題にもなっていました。

転倒による損害賠償判決は過去にはなかったのか?

答えはある様です。

具体的な情報までは出ていませんが、弁護士さんのブログの中で訴訟事例として触れられています。

介護事故の裁判|介護施設相手に訴訟する方法と訴訟事例の解説 | アトム法律事務所弁護士法人
重大な介護事故では裁判になることも考えられます。訴訟事例を紹介するので、実際に介護施設と裁判になった際に有利に進められるように、裁判の流れなどを理解しておきましょう。

今回の県立西宮病院に近い事例としては、介護老人保健施設において、利用者の方が3度にわたって施設内で転倒、頭蓋骨骨折による両側前頭葉脳挫傷の末に亡くなられました。

ご遺族は注意義務違反等を主張して、介護老人保健施設に対する損害賠償請求を起こしました。

裁判所は、1回目の転倒事故について介護施設側に落ち度があるとは言えないと判断しました。

しかし、2回目および3回目の転倒事故については、施設側の注意義務違反と傷害の因果関係を認めたのです。

死亡慰謝料として2300万円、逸失利益として138万7810円、葬儀費用117万6111円等の損害賠償を認めました(京都地方裁判所 平成28年(ワ)第3590号損害賠償請求事件 令和元年5月31日)

他にも訪問介護サービス利用中に転倒し、左大腿骨頸部内側骨折を受傷した事例に関して、裁判所は入通院慰謝料328万円、後遺障害慰謝料1180万円等の損害賠償を認めています。

ただ、この2つの事例に関しても控訴したのか、損害賠償を受け入れたのかまでは記載されていません。

問題なのは慰謝料の額が大きいか小さいかではなく、例え小額であったとしても、病院や看介護スタッフの関わり方が不適切だったという事が認められている事自体が業界としては問題なんですよね。

現場で実践出来る転倒対策とは?

最初にも書いた様に100%転倒を防止する方法はベッドから動けない様に抑制して、オムツ対応。

正直、現実的ではない為に現場ではセンサーマット(立ち上がろうとすると音が鳴る)や離床センサー(ベッドから離れようとすると音が鳴る)を活用したりしていますが、反応して音が鳴った時に看介護スタッフが必ず近くにいるとは限らないですよね。

各部屋に小型のカメラを設置し、適宜様子を見る事は可能ですが、気付いた時には既に部屋から出て来ているといった可能性も0ではありませんし、更に常に監視下に置かれるという環境も精神的ストレスに繋がるのではないかと考えています。

1番現実的な対策としては、転倒する可能性がある事を前提に入院時に全ての患者さんもしくはご家族に同意書(万が一転倒しても文句は言いません)を書いて頂く事。

同意書を書いてもらわないにしても、入院時に抑制しない場合、どうしても回避出来ない転倒もあるという説明をしっかりしておく必要はあるのでしょうね。

どの対策を実践するにせよ前向きな対応ではありませんし、身体抑制を少しでも減らしていこうという今の流れに逆行する展開である事は違いありません

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どう対応しても問題は0にはならない

100%転倒は防ぐ事が出来るオムツ対応+ベッド抑制を実践してみたとしましょう。

転倒による訴訟問題には繋がらないかもしれませんが、長い目でみると医原性サルコペニアによって、身体能力が低下し、寝たきりに近づいていく事になります。

医原性サルコペニアについてまとめたブログは↓

転倒はしていませんが、寝たきりに近い状態になった事に対して家族からクレームが出る可能性も否定出来ません。

別室の患者さんにはオムツ内で排便してもらう様に伝えたとしましょう。

別室の患者さんの情報があまりにも少ないので勝手な推測になってしまいますが、仮に認知症がなければ『半ば強制的にオムツ内で排便させられた』とクレームに繋がる可能性があります。

また『オムツ内で排便したくない』という気持ちが1人で動き始めるキッカケになり、転倒する可能性もあります。

認知症がある場合も、待ってもらっている間に1人で動き出す可能性は充分ある訳です。

今後同じ状況に陥った時に医療介護従事者としてどうする?

まずは1人で抱え込まず、周囲の協力を仰ぐ事。

県立西宮の場合は早朝の話なので、スタッフの数が限られていた可能性はあります。

協力を依頼出来る状況ではなかったのかもしれませんね。

こういった状況に陥った時にこそ、評価能力が重要になって来ます。

別室の患者さんが1人で起き上がる事が難しいという事が評価出来ていれば、人権的な問題(排便したいのに待って頂く)は残りますが、トイレ誘導した患者さんを優先する事が出来ます。

別室の患者さんは1人で起き上がれない為、転倒する可能性は低いですが、トイレ誘導した患者さんは転倒する可能性があるからです。

こういった患者さんの現状を看護師だけが知っておけばいいのではなく、チームで共有しておく事が何よりも大切ですね。

まとめ

今回は県立西宮病院の損害賠償判決から、入院患者の転倒を100%防ぐ方法はあるのかという事について考えてみました。

結果として、防ぐ方法はあるけれど現実的ではなく、例え実践しても転倒とは違った問題点が出て来る事が予測されました。

最後に今回はトイレ誘導した看護師に注目が集まっていますが、私を含む療法士も決して他人事ではありません。

主治医に相談した上で『介助でトイレまで行っても大丈夫ですよ』というゴーサインを出すのは療法士である事も多いですから。

今回の判決が与えた影響は病院だけでは留まりません。

老人保健施設やGH(グループホーム)等でも、訴訟を恐れた結果、寝たきり患者さんが増えていく様な事にならなければ良いのですが。。。

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