理学療法士が考える退院支援のポイント~家に帰る事はゴールではなくスタート~

理学療法士
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『家に帰りたい』

理学療法士として約20年間、多くの入院患者さん(高齢者)と関わらせて頂きましたが『美味しい物を食べたい』と同じくらいよく聞く言葉です。

京都第一赤十字病院によると『退院支援とは入院患者さんが退院後も安心して療養できるよう支援すること』と説明されています。

また『患者さんが住み慣れた地域でその人らしい暮らしをしていくために、退院後の生活を見据え、主治医、担当看護師、理学療法士等の多職種が連携して、患者さんやそのご家族にとって最善の退院先を検討することが求められています』ともしています。

自分自身も数多く自宅復帰や施設復帰を支援して来ましたが、大切にしている事は『家に帰る事がゴールではなく、家に帰ってからどうやって過ごすのかが重要』だという事。

今回は今までに自分が関わらせて頂いた2人の患者さんの退院支援について考えてみたいと思います。

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家にさえ帰れればOK?ご家族に対する配慮も必要だった症例

転倒により下肢の骨を骨折し、入院した病院で理学療法を受け、自宅復帰した患者さん。

私が関わらせて頂いたのは退院後の外来リハビリテーションでした。

話を聴いてみると、自宅復帰は出来たものの、入院前は自立していた生活が遠方に住む娘さんの協力なしには生活出来なくなっていると。

娘さんは介護に協力的ではあるものの、家庭と仕事もあり、親としては申し訳なく感じているとの事でした。

更に深掘りしてみるとコロナ渦を言い訳に退院前訪問は実施せず。

介護保険は相談してみるも看護師の『出ないと思います』の一言で申請せず。

自宅復帰後に困った時に相談出来る場所の提案等もせず。

要するにある程度歩ける様にはなったので『自宅に帰ってもらっただけ』の状態でした。

1人の理学療法士として患者さんを評価すると、骨折による痛みは残存しているも家で過ごす(独居)だけならば大きな問題はない。

ただし、日常生活を送る上で4つの問題点が思い浮かびました。

  1. 1人で買い物に行けない
  2. 1人での外来通院に不安がある
  3. 社会的交流が少ない
  4. 娘さんの介護負担

私が最初にした提案は介護保険の申請。

正直、介護度がつくかは申請してみないとわからない状況でしたが、1番軽い要支援1でも出れば、通所リハビリテーションを利用出来る事で②の外来通院の不安が解消されます。

更に外来通院には必ず娘さんが付き添われていたので④娘さんの介護負担軽減にも繋がると考えました。

『申請出来るんですか?』と娘さんは驚かれていましたが、患者さん自身も通所リハの送迎バスを利用する事に抵抗もないとの事でダメ元で申請し、介護認定が出ました。

介護申請の結果が出るまでの間には①1人で買い物に行けないに対してアプローチしました。

自宅→病院よりも自宅→買い物先の方が距離的に近い事を確認し、まずは娘さんが来た時に杖歩行で一緒に買い物に行ってもらい、店内のカートでの移動も含め問題ない事を確認しました。

転倒する前には同世代の友達と一緒に週に1回ランチをしておしゃべりをするのが楽しみだったという事を聞き、主なランチの場所を確認すると買い物先と目と鼻の先である事が判明。

買い物に1人で行ける様になれば必然的に③社会的交流が少ないも解消出来るなと考えました。

その時点では食材があれば調理は出来る状態でしたので、買い物にさえ行けて独居生活が安定すれば④娘さんの介護負担も大きく軽減出来ます。

自宅→買い物先→店内で買い物→自宅まで歩く事が出来ればOKではなく、買い物した荷物を持って歩く事が出来るかも考えました。

結果的に介護認定が出た為、シルバーカーをレンタルし、荷物はシルバーカーに載せる事を提案し、医療保険でのリハビリテーションから介護保険でのリハビリテーションへと移行する事が出来ました。

真面目な性格でしたので、その後も運動を頑張られた結果、1人で買い物に行ける様になり、楽しみであったランチ会へも復帰。

心配から頻繁に来られていた娘さんがほぼ来なくなったと苦笑されていました。

個人的にはこういった提案、ケアマネジメント、環境調整も含め、療法士の仕事であり、リハビリテーションだと考えています。

出来る事を探しませんか?自宅復帰したものの自動車と自転車を奪われた症例

原因不明の脊椎圧迫骨折で入院し、理学療法を受けて自宅復帰した患者さん。

入院される数年前には私が外来リハビリテーションで関わらせて頂いていた方でした。

ある日『動けなくて困っている』とSOSの電話が私にあり、話を聴いてみると、コロナ渦を理由に退院前訪問は実施していない。

介護保険は使える状態であるにも関わらず、退院後のリハビリテーション含め、ケアプランの見直し等、一切話はなし。

要するにこの患者さんも『自宅に帰しただけ』の状態でした。

最初に紹介した患者さん同様、自宅復帰後、生活に困っている事は入院時に担当していた理学療法士は全く知らない訳です。

少なからず退院支援に関わる療法士には退院後の生活にもう少し興味を持って欲しい。

それが退院を支援する者の責任ではないかと私は考えます。

入院前は自動車に乗り、ちょっとした仕事も家事も趣味も孫の世話も全てこなしていた人がほぼ寝たきり生活になっている事に愕然としながら、今後の展開として3つの提案をしました。

  1. 通所リハで定期的に理学療法を受ける事
  2. 趣味である花の世話を再開する事
  3. 歩く目的を見つける事

①に関しては、患者さんの話を聴き、いわゆる活動量低下(寝ている時間の増加)による『廃用症候群』(使わない事で筋力が落ちる)で弱っているんだろうなと考え、活動量を上げる為に通所リハの利用を提案しました。

コロナ渦も相まって社会的交流も減少していた事もあり、精神的にも他者に見られる、コミュニケーションが必要な環境に身を置く事はプラスに働くと考えました。

定期的に顔を見に行き、話をするだけでなく、叱咤激励する事も実践しました。

②の花の世話も退院後は実施していないとの事でしたが、環境を整えればすぐにでも実践可能でしたので再開してもらいました。

長時間ではないかもしれませんが、ベッドで寝ているだけよりは活動量が増えますし、身体機能に意識が向きやすい療法士にはこういった楽しみの部分も大切にして欲しいですね。

③に関しては歩行器を活用すればある程度歩く事は出来ていたのですが、その歩行距離で行けるお店や場所がない状態でした。

話を聴いた当初は自動車を運転して、お店でカートを押せば最低限の買い物には行けるのではと考えていたのですが、振動により、再骨折のリスクがある為に主治医に自動車と自転車には乗るなと言われていました。

自分自身の親であれば、話が出来そうな整形医を探して主治医変更を提案するのですが、流石にそこまで口を出す事は出来ません。

ただ、転倒リスクが0にならないのと同じく、自動車、自転車に乗らないからといって再骨折のリスクも0にはならないと考えます。

入院患者の転倒を100%防ぐ方法について考えてみたブログは↓

私を含む医療側も乗るなと言うのであれば代替手段を考慮すべきだと思いますし、少なくとも再骨折する可能性はあるけれど、自動車、自転車に乗るという選択肢もあるという事は提示したのかなと考えてしまいますね。

本当にそれは患者さんの『意思決定』ですか?

『医師決定』になってしまっている現状が未だに多々あるのかもしれませんね。

現時点では活用出来る選択肢が歩行器しかない状況でしたので、1番近くのスーパーまでの歩行距離を把握し、まずは休憩を挟みながらでも歩ける様になる事を目標に設定しました。

とはいえ、いきなり大きな目標を目指してしまうと到達するまでに時間を要し、モチベーションが持続しない可能性を考慮し、まずは近場の友達の家まで歩行器で行き、お喋りして帰って来る事を最初の目標にしました。

人は物事が少しでも前に進んでいる時にモチベーションが高まる事が研究結果からわかっています↓

1人の理学療法士として、身体機能面だけでなく、精神面も大切にしていきたいですし、何よりもリハビリテーション専門職として『その人らしい生活』を支援出来る人でありたいものですね。

まとめ

今回は2人の症例を通じて『家に帰る事はゴールではなくスタートである』という事についてまとめてみました。

退院支援に関わる者(医療領域)として『家に帰れる状態にはしたので、後は在宅支援の方々(介護領域)よろしく』はあまりにも無責任だと考えています。

医療者は医療領域の事だけ頑張り、在宅を支える職種は介護領域の事だけ頑張る。

そんな状態でスムーズな医療介護連携なんて困難だと私は思います。

患者さんを自宅へ送り出す側も患者さんを在宅で支える側もお互いの領域をもっと知ろうとする努力が必要であり、お互いの仕事への理解が深まれば深まる程、医療介護連携も少しはスムーズに進むのかもしれませんね。

退院支援する側の取り組み方、意識の持ち方次第で患者さんの未来はいい意味でも悪い意味でも変わって来ます。

正解はないとはいえ、今一度自分自身が行って来た退院支援は『家に帰る事』がゴールになっていなかったか振り返ってみて欲しいですね

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