私自身、ここ数年で管理栄養士と患者さんの事についてディスカッションする機会が増え、一緒に摂食嚥下や栄養系のオンラインセミナーを受講する事も増えました
ディスカッションする機会が増えた理由は間違いなく『リハビリテーション栄養』(以後リハ栄養)を学び始めてから
同じ理学療法士として手技の精度を高める努力が楽しい、重要だと感じる気持ちはよく理解出来るのですが、手技の効果を最大化する、効率的にリハビリテーションを実現したいのであれば、リハ栄養の考え方は知っておいた方が良いと私は感じています
とはいえ、正直リハ栄養に興味を持つまでの15年程度は管理栄養士と連携した経験は一度もありませんでした
前回は理学療法士として医師・看護師・介護福祉士とどの様に連携していけば良いのかについてまとめましたが、今回は無謀にも理学療法士と管理栄養士との連携についてブログを書こうとしているのだから、キッカケって改めて大切だなと感じる訳です
前回の記事でも少しばかり管理栄養士との連携は書きましたが、今回も自分自身の経験とリハ栄養の視点も踏まえながら、掘り下げてみたいと思います
理学療法士と管理栄養士が連携する為には
管理栄養士とディスカッションする前に理学療法士として理解しておいて頂きたいのは
『リハからみた栄養』と『栄養からみたリハ』の考え方
これはまさしくリハ栄養の視点なのですが、この2つに関しては↓の記事にまとめてありますので、参考にしてみて下さい
もう1つが人はエネルギー不足(低栄養)になると、自分自身の筋肉等を分解してエネルギーを作り出すという事
要するに低栄養状態の患者さんに負荷をかけると消費エネルギーが増えるので、余計に弱る可能性があるという事
ここを理解しないまま手技力をいかに高めても、筋トレの負荷設定を適切にしてもリハビリテーションが実現しにくい事は少し考えてみればわかる事ではないでしょうか?
痩せていく一方のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の高齢男性
自宅で奥さんと2人で生活していましたが、少しずつ食思が低下し、息苦しさも増悪して来た為に入院されました
入院当初から認知症はなく、ADLも自立レベルで『運動しないと足腰が弱る』と歩く事にも積極的な男性でした
高齢な事もあり、食事摂取量は低下気味で病院の食事は頑張って食べておられましたが、今以上に増やすのは難しい状況
一方で、慢性閉塞性肺疾患等の呼吸器疾患は呼吸筋の活動等が盛んに行われる為に消費エネルギーがかなり増えている可能性が高いです
呼吸器疾患を持つ方を担当した経験がある人は思い出してみて下さい
その内の多くの人が痩せ細っていませんでしたか?
- 高齢になるにつれ、単純に食事摂取量が低下する
- 食事摂取する事で呼吸が乱れ、食事摂取量が低下する
- 疾患により呼吸筋の活動が増える
こういったいくつかの理由におって呼吸器疾患の方は体重が減りやすいんです
低栄養による体重減少は何故良くないのかは↓の記事を参考にしてみて下さい
話を元に戻しますが、今回紹介した男性の場合は
- 加齢による食事摂取量の低下
- 慢性閉塞性肺疾患による呼吸筋の活動増加
- 足腰を弱らせない為の自主的な運動
この3つにより体調(呼吸状態)が悪化したと推測出来ました
奥さんが認知症であり、今後夫である男性が奥さんを支えていくという生活を考え、自宅に帰る前に介護保険の申請を行い、訪問看護や訪問介護のサービスを受けられる体制を整えました
動作能力的な問題はなかったものの、1週間単位で体重を確認すると体重は減少傾向にあった為、管理栄養士とディスカッションし、主治医に栄養補助食品のクリミールの追加を提案しました
主治医のOKが出た為、男性に何故痩せていくのか、何故クリミールを飲む事が必要なのかを説明し、納得してもらった上で飲み始めました
『美味しいとは言えんな』とは言いながらも、飲む必要性が理解出来たからか頑張って飲んで下さいました
結果、体重減少に歯止めがかかり、入院当初よりも少し体重が増えた状態で無事に自宅退院
その後も訪問系のサービスを利用しながら妻と2人で安定した生活を送られていたそうです
この男性に対して私が行った理学療法としては呼吸筋に対するリラクゼーションと歩行を中心とした運動療法のみです
負荷設定を強めにして消費エネルギーを増やす事がマイナスに働く(弱ってしまう)可能性を考え、自宅復帰するにあたって必要な動作を反復して練習する事と今までの様な積極的な自主トレ(何kmも休みながら歩き続ける)は不要である事をわかりやすく伝えました
病院食が口にあわない高齢男性
偽痛風による両膝痛で入院して来た男性でした
自宅では1日に5回程好きな物を食べているといった生活だった事もあり、病院食がとにかく口にあわないと食事摂取量が低下し、1ヶ月が経過した頃には体重がかなり減っていました
元々ふくよかな体格だった事もあり、最初は多少体重が減る事に対しては問題ないかなと考えていましたが、あまりも改善しない食事摂取量と減っていく一方の体重に管理栄養士とディスカッションする中で
『病院で食べてもらうのではなく、早めに家に帰ってもらって食べてもらおう』
という結論に至りました
最終的に主治医にも相談した結果、患者さんとご家族に『今まで通り好き放題食べるのは身体的には良くない』という事を説明した上で自宅復帰が決まりました
比較的早い段階で両膝痛は軽減し、動作能力は安定していましたので、自宅環境と介護保険サービスを調整し、問題なく自宅復帰する事が出来ました
退院後訪問にも同行したのですが、その時点で既にプリンを食べていたので『好き放題食べるんだろうな』と思って、男性宅を後にしましたが、後程担当ケアマネに話を聞いてみると
『自宅復帰後みるみる体重が増えて元気になりました』との事
主治医の意見から考えても、好き放題食べる事は決して身体的には良くないのだと思います
ただ私自身はリスクを知った上で食べる、食べないを選択するのは患者さんの自由だと考えています
そういった選択も含めてACP(人生会議)なのではないでしょうか?
管理栄養士は必要エネルギー量の計算や体重の増減の確認、患者さんの好みにあわせた食支援等が強みかもしれませんが、患者さんに対してどんな理学療法が実施されているのか、どの程度活動量が上がって来ているのかまでは把握出来ていない事が多いです
全ての担当患者さんの理学療法に付き添う事なんて出来ない訳ですから
そういった状況(いわゆる活動代謝)を1番把握出来ているのは当然ながらリハ職であり、そういった情報を管理栄養士と共有する事で食事メニューが変わり、結果的に効率的なリハビリテーションにも繋がるのではないでしょうか?
まとめ
今回は理学療法士と管理栄養士の連携について自分自身の経験も含めながら深掘りしてみました
今後、理学療法士としてはリハ栄養の視点を大切にしながら、ST(言語聴覚士)や歯科衛生士とも連携しながら、実際の食事場面での摂食嚥下の状況確認や座位姿勢(食事時の姿勢)の確認、耐久性のチェック等もしていく必要があると考えています
最後にもう一度伝えておきたい事としては『効率的なリハビリテーションの実現には栄養が土台である』という事
正確にはリハビリテーションに限らず、全ての活動の土台は栄養であるといっても過言ではないのかもしれませんね
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