指導者や上司がパワハラや暴力、人格否定を繰り返す理由~地位が上がると共感能力が落ちる~

理学療法士
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2012年に大阪の桜宮高校バスケ部の体罰問題が公になって約10年が経過しましたが、未だに体育会系の部活動を中心に暴力沙汰がニュースになったり、先日も自衛隊の水陸機動団に所属する20代の男性が上司のパワハラをキッカケに自死しています。

同じ様に、わざわざ言わなくてもいい様な事を言って度々炎上する有名政治家なんかも何人か思い当たるのではないでしょうか?

以前にもブログで取り上げさせて頂きましたが、自分自身は違和感を感じていても、周囲がパワハラや人格否定を当たり前の様に行っている、捉えている環境に身を置き続ける事で『同調』が起こっている可能性もあります。

同調を簡単に説明するならば、自分の意見や信念に関わらず、多数派に賛同(流される)する事を言います。

『あれ?私の違和感がおかしいのかな?』と感じたら同調が起こりつつあるのかもしれません。

同調に関してまとめたブログは↓

今回は指導者や上司がパワハラや暴力、人格否定を繰り返す理由について、様々な実験結果や心理効果を基に今一度考えてみたいと思います。

パワハラや人格否定をしている側は『私達の時代に比べたら』といった様に軽く考えているかもしれませんが、身体的に危害を加えていなくても『言葉の暴力で人は死ぬんだ』という事を自覚して欲しいですね。

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人間は地位が高くなればなるほど共感能力が落ちる

実は権力は人を横柄にするという事は科学的にも証明されているそうです。

カリフォルニア大学バークレー校のダッチャー・ケルトナー教授は長年、行動学の研究を続け、自分に力があると感じたり、特権的な立場を享受する等、権力を持った人はそうでない人より無礼で、身勝手、そして非倫理的な行動をとりやすいと結論づけています。

この研究では300名強の被験者を集め、何枚かの写真や面接動画等を見せて、その人達がどの様な感情を持っているのかを推測するという他人の感情を読み取る実験を行いました。

その結果、教育レベル・収入レベル・社会的地位が高くなればなるほど、相手の感情を読み取るのが苦手になる傾向があるという結果が出たそうです。

更にケルトナー教授によれば、裕福な人ほど、他人の感情等を理解する共感力が下がり、賄賂や脱税など非倫理的な行為が許されると答える確率が高かった。

企業で権力の座についている人は、職場で他の人の話をさえぎる、会議中に他の仕事をする、声を荒らげる、人を侮辱する様な事を言うといった可能性が、下位のポジションにある人の3倍に上ったという研究もあるとの事。

こういった研究結果から考えてみると、上司や業界では名前の売れた指導者、国会議員等は自分が思っている以上に共感力が下がり、ハラスメントを起こしてしまいやすいポジションにいるのかもしれませんね。

何故、上司や指導者達の共感力が落ちるのでしょうか?

それは、地位が高くなったり裕福になる事で、自分で全ての決定を下し、それに周りがついてくる様な(特に周囲にイエスマンしかいない)状態になると、他人に共感する必要がなくなります。

結果的に必要になる能力は他人を牽引する能力や他人の感情に流されないで残酷な決定も出来る能力です。

地位が上がれば上がるほど、共感力は自然に使わなくなるので衰えていき、そのかわりに鈍感力が手に入っていくという事ですね。

共感力を落とさない為には過去を振り返ったり、思い出したりしよう

ただし、地位が上がれば共感力は低くても良いという事ではありません。

共感力が高くて地位が高い人の方がより成功しやすいという事もわかっています。

これはある意味当然ですよね。

では具体的にはどの様にすれば良いのかという事もわかっています。

実験では裕福な人達に自分達が労働者階級にいる所を想像してもらったり、労働者階級にいた頃を思い出してもらったら感情の読み取りが上手くなりました。

要するに、権力を握っている人や部下の生活を知ったり、想像する事、裕福な人は決して裕福ではない時を想像したり、思い出すという事をしないと、どんどん共感力は落ちていくそうです。

例え権力を握っても、そういう人達と交流したり、友達を持っておくというのは自分自身を振り返る上でも大切だという事ですね。

世界一貧しい大統領として話題になったホセ・ムヒカさんがとても印象的な言葉を残されています。

大統領なのになぜそんなに貧しいのですか?と尋ねられて

『大統領は国民が考えている事を知らないといけないし、大多数の国民と同じ生活をしなければならない。贅沢な暮らしをすれば国民の気持ちがわからなくなる』

と答えたそうです。

我が国のカップラーメンの値段さえも知らない元内閣総理大臣との考え方の違いに愕然とするばかりですよね。

ホセ・ムヒカさんを一躍有名にした国連での演説は↓

出世して立場が上になったり、少し業界で名前が売れた時こそ自分自身を見失うピンチだという事、そしてそういった時にこそ周囲の人の声に耳を傾けたり、アドバイスを求めたりする事も大切なんでしょうね。

周囲に人がいればいる程、援助行動を起こしにくくなる~傍観者効果~

今まではパワハラや暴言、人格否定をする人について掘り下げてみましたが、ここからはパワハラや暴言の有無を知っておきながら見逃してしまう周囲の人の事について掘り下げてみたいと思います。

例えば、道を歩いていると人が苦しそうにうずくまっている現場に遭遇しました。

その人の周囲には自分以外にも多くの人がいます。

でも誰も救急車を呼んだり、声を掛けようとはしていません。

そんな時、多くの人の頭の中には3つの思考が浮かんでいる可能性があります。

  1. あの人苦しそうにしているけれど、誰も深刻そうじゃないし、大した事ないのかな(多元的無知)
  2. 自分以外にもこんなにたくさん人がいるんだから、誰か声を掛けるだろう(責任の分散)
  3. 助けた方が良いんだろうけど、こんなに大勢の人の前で適切に助けられなかったら嫌だ(評価懸念)

こういった周囲に多くの人がいる事で人助け行動が抑制される事を『傍観者効果』と言います。

傍観者効果はアメリカの心理学者のラタネとダーリーが提唱したのですが、実験は次の様に行われました。

実験に参加した大学生は、マイク付きのヘッドホンを渡され、別室にいる別の参加者と生まれ育った環境について話します。

実験者は話の内容に影響が出ない様に内容は聞かないと伝えられ、マイクは順番に2分づつスイッチが入り、交互に話します。

ちなみに実際は大学生以外に参加者はおらず、マイクからは録音された音声が流れるだけなのですが、大学生はこの事を知りません。

実験が始まるとすぐに、マイクから別室に居ると思っている参加者が発作で苦しむ声が流れてきます。

参加者の大学生は、実験者はこの会話を聞いてないと思っているので、急いでこの緊急事態を伝えなければと考える訳です。

この時の助けを呼びに行く為に個室から出る時間を計測しました。

傍観者効果を調べる為に、以下の3つのグループに分けられました。

大学生達の会話を聞いている

  1. 傍観者が0人と伝えられるグループ
  2. 傍観者が1人と伝えられるグループ
  3. 傍観者が4人と伝えられるグループ

結果的に個室から出る時間は傍観者0人と伝えられたグループが最も早く、次いで1人、4人となりました。

これは傍観者の存在が援助行動を抑制してしまい、援助行動に移るまでに時間がかかってしまったと考えられる訳ですね。

目の前でチームメートが監督からパワハラを受けているとしましょう。

周囲にはたくさんの仲間がいる故に誰も助けに入ろうとしないという事態に陥ってしまう訳ですね。

その背景には『余計な口出しをすると自分がターゲットになるかもしれない』という考えや『下手に口を挟んでレギュラーから外されたくない』といった想い等もあり、結果的にパワハラや暴言が見逃されてしまう事に繋がります。

『集団になると、個人個人の能力が発揮しにくくなる~リンゲルマン効果~』

傍観者効果に類似している部分も多いのですが、別名『社会的手抜き』とも呼ばれています。

フランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンによって提唱された理論で、人は集団になると手を抜き1人で作業するよりも発揮する力が減少するというものです。

リンゲルマンはこの理論を実証する為に集団作業の綱引き実験を行いました。

この実験により、作業人数が増えるほど1人が発揮する力が減少する事が証明されました。

1人で作業する時の力を100%とした場合、2人の場合は93%、3人の場合は85%、4人の場合は77%、5人の場合は70%と減少していき、8人の場合は49%と『本来発揮出来る力の半分以下しか発揮出来なかった』という結果を導き出しています。

この様な手抜きは決して意識的なものではなく、無意識に行われている事を実証した実験があります。

心理学者であるラタネ氏とダーリー氏が行ったチアリーダーの実験です。

チアリーダー2人に目隠しとヘッドフォンを着用してもらい、互いの状態が分からない様にした状態で、単独の場合とペアの場合で大声を出してもらいます。

その結果、ペアの場合は単独の時と比較して94%の音量しか出ませんでした。

しかし、チアリーダー2人はいずれの場合も全力で声を出したという認識だったのです。

この結果から集団作業における『社会的手抜き』は、必ずしも意識的なものではない事が確認されました。

社会的手抜きが生じる理由は2つあると考えられています。

  1. 集団内だと自分が正しく評価されない可能性がある。
  2. 自分が頑張っても他の人が手抜きをしたら失敗する可能性がある。

①の場合、例えばグループとしての評価は高くても、その評価に対して自分がどの程度貢献出来たかはハッキリしません。

その結果、個人への注目度が下がり、いくら頑張った所で正当に評価されないかもしれないとモチベーションが下がってしまいます

②の場合、自分がいくら懸命に頑張っても、他の人がサボってしまうと集団全体の能力は下がります。その結果、失敗する可能性も出て来る為にモチベーションが下がってしまう訳ですね。

傍観者効果の時と同様に目の前でチームメートが監督からパワハラを受けているとしましょう。

仲間達と一致団結してパワハラに立ち向かえば成果を出せるかもしれませんが、人が増えれば増える程、リンゲルマン効果が働き『皆がやってくれるからいっか』という人も増えて来ます。

その結果、発揮出来る力が下がってしまい、パワハラや暴言を 止めるまでに至らない可能性も出て来る訳です。

まとめ

今回は指導者や上司がパワハラや暴力、人格否定を繰り返す理由について、本人の問題と周囲の人の問題に分けて考えてみました。

例え暴言でなくても、陰で特定のスタッフの悪口や文句ばかり言っている人を見かけた事があるのではないでしょうか?

悪口を言う事で当人的にはストレス発散した感じになるのかもしれませんが、実は悪口を言う事で余計にストレスホルモンが出るという研究結果も出ています。

悪口に関してまとめたブログは↓

パワハラや暴力を完全になくす事は極めて難しいと思います。

少しずつでも減らす為にも、パワハラや暴力をする側とされる側、両者共に今出来る事を実践していくしかないと考えています。

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