人が年齢を重ねていく中で身体的に何らかのトラブルを抱え、活動量が落ちて来ると、どうしても向き合う必要が出て来るのが『廃用症候群』ではないでしょうか?
では具体的に『廃用症候群』とはどういった状態の事を言うのでしょうか?
健康長寿ネットによると、廃用症候群とは
『過度に安静にすることや、活動性が低下したことによる身体に生じた様々な状態』
とされています
理学療法士として働いているとよく遭遇する
- 関節の動きが悪くなる『関節拘縮』
- 骨がもろくなる『骨萎縮』
- 急に立ち上がるとふらつく『起立性低血圧』
- 床ずれとも言われる『褥瘡(じょくそう)』
等も廃用症候群に当たります
今回は理学療法士として廃用症候群(主に下肢筋力低下)が生じる理由を紹介するだけでなく、多くの人に知って欲しい『疾患+廃用症候群』という捉え方についてまとめておきたいと思います
疾患+廃用症候群という考え方
今回の記事を通して、理学療法士として1番伝えたい事は
『疾患+廃用症候群』
という考え方についてです
批判を恐れずに書かせて頂くならば、この考え方が出来る医師はまだまだ多くはない様に感じています
だからこそ、高齢者や一般の方にも『疾患+廃用症候群』という考え方を少しでも理解しておいて頂きたいのです
少し具体的に考えてみましょう
手術は成功したのに寝たきり状態になる理由
例えば、高齢者のAさんが1ヶ月くらい前から身体の調子が悪いので、受診すると大腸癌で即手術が必要と診断されたとしましょう
入院して手術は大成功!!
しかし術後、以前の様には歩けなくなってしまい、寝たきり状態に。。。
主治医に相談してみると『手術は成功ですが、お歳ですから(よくある医師の決まり文句)歩ける様になるのは難しいかもしれません』と言われた
高齢者や一般の方にはここで諦めないで欲しいのです
癌という『病気』は命に関わる大病ですが、脊髄や脳転移等の理由がない限りは、癌自体が足の筋力を急激に低下させたりする事はありません(炎症に伴い消費エネルギーは増えている事は予測されます)
つまり、例えであげた高齢者のAさんにも『疾患(大腸癌)+廃用症候群』という考え方が成立するのです
違った捉え方をするならば『疾患(大腸癌)+医原性サルコペニア』によって弱ったという考え方も出来るのではないでしょうか?
医原性サルコペニアに関しては↓
改めて情報を整理してみましょう
Aさんは1ヶ月くらい前から身体の調子が悪かった
ここから1ヶ月程度はいつもより活動量が低下し、食欲も低下していた可能性が考えられます
更に手術後は術創部(傷口)の痛み等から、安静臥床(ベッドで寝ている)している時間が長くなる可能性も考えられます
その結果、廃用症候群(主に下肢筋力低下)が生じている可能性が高まる訳ですね
ちなみに元気な高齢者は加齢に伴い『1年』に1%筋肉量が低下するのですが、入院して『1日』臥床していると0.5%筋肉量が低下するそうです
つまり2日間臥床するだけで約1年分の筋肉が失われる事になります
ここが非常に重要なポイントなのですが、私を含む療法士は『大腸癌』を治す事は出来ませんが『廃用症候群(下肢筋力低下)』に対してはアプローチする事が出来ます
理学療法士として出来る事を考える
Aさんが寝たきり状態になった原因を『大腸癌』と捉えてしまうと、療法士として出来る事が限られてしまうのですが、原因を『疾患+廃用症候群』と捉える事が出来れば、出来る事が増える訳ですね
回りくどい言い方はせずに、単刀直入に表現させて頂くならば、療法士を含む医療介護従事者はこの『廃用症候群』にもっと意識を向けるべきだと考えています
そして効率的にリハビリテーションを実現していく為にもリハ栄養の視点は非常に大切だと考えています
繰り返しになりますが『大腸癌で弱った』ではなく『大腸癌と廃用症候群で弱った』という認識を持った方が良いと私は考えています
同じ考え方が脳卒中(脳梗塞や脳出血)でも当てはまるのではないでしょうか?
脳梗塞や脳卒中になると麻痺が生じる事があります
手足が思う様に動かない状態を100%麻痺の影響と捉えるか80%麻痺で20%廃用症候群と捉えるかで関わり方が変わって来ますよね
決して癌や脳卒中に限った話ではなく、基本的に高齢者は多かれ少なかれ『廃用症候群』を併せ持っているという認識で良いと考えています
まとめ
今回は廃用症候群に対するリハビリテーションの捉え方の1つとして『疾患+廃用症候群』について紹介させて頂きました
紹介させて頂いた『疾患+廃用症候群』の考え方については森剛士先生
『リハ栄養』については吉村芳弘先生
『低栄養』や『フレイル』に関しては佐々木淳先生の動画が非常にわかりやすいと思いますので、少しでも興味があれば↓の記事からご覧になってみて下さい
最初にも述べましたが、まだまだ『病気』ばかりに意識が向いて、病気に伴う『廃用症候群』に意識を向けられる医師は多くはありません
だからこそ療法士を含む医療介護従事者、そして可能ならば患者さん自身やご家族も『廃用症候群も影響しているのではないか?』と疑う事も必要だと私は思います
『疾患+廃用症候群』の考え方が理解出来ていれば、決して療法士でなくても、医療介護従事者でなくても対象者の身体機能を向上させる事が可能である事がわかるのではないでしょうか?
『病気で弱った』ではなく、正確には『病気と廃用症候群で弱った』
医療介護従事者だけでなく、一般の方も含め、少しでも多くの人にこの考え方が広がる事を願うと同時に理学療法士として日々新しい情報にアンテナを張り、より良いものを患者さんに提供出来る様に学び続けていきたいと思います
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