理学療法士として働き続けて19年。
様々な疾患と向き合って来た結果、自分の中で大切にしている価値観があります。
それは『諦めずに抜け穴を探し続けよう』という事。
違う表現をするならば『半ば強制的でも良いので、療法士として症状を緩和出来る様な捉え方をしよう』という事ですね。
今回は私の経験の中で上手く抜け穴を見つけ出す事が出来た患者さんを紹介すると同時に、具体的にどの様に改善していったかを紹介してみたいと思います。
理学療法士に必要な問題点の捉え方
大前提として、療法士が担当する疾患の多くはどんな卓越した手技を活用しようと根本的には改善しない疾患ばかりです。
例えば腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、半月板損傷、腱板断裂。
腰椎椎間板ヘルニアであれば、突出している部位(髄核)は外部からいくら刺激を与えても元の状態には戻りません。
腰部脊柱管狭窄症であれば、加齢に伴い、骨が尖って来たり(骨棘)する事があり、それが脊髄に接触する事で症状が出たりするのですが、外部からいくら刺激を与えても骨棘が改善する事はありません。
肩の腱板断裂であれば、肩の筋肉が一部分または完全に断裂する事で痛みが出たり、可動域(肩を自由に動かせる範囲)が狭くなったりするのですが、外部からいくら刺激を与えても断裂している筋肉が修復される事はありません。
腰椎椎間板ヘルニアも腰部脊柱管狭窄症も肩の腱板断裂も根本的な原因を改善しようとするならば、選択肢は手術一択なんです。
でも患者さんが手術はしたくない。
主治医がまだ手術をするのは時期尚早と判断。
そういった手術はしない、でも根本的には改善出来ない患者さんがリハビリテーション科に来られる訳ですが、療法士としてどの様に抜け穴を探しているのかをまとめておきたいと思います。
腰椎椎間板ヘルニアの画像所見と症状は必ずしも一致しない
腰椎椎間板ヘルニアの画像所見と症状は必ずしも一致しないという事が既にわかっています。
参考にして頂きたいHPは↓
要するにヘルニア(突出部位)が少ししか突出していないのに猛烈に痛みがある人もいれば、大きく突出しているのに無症状の人もいるという事ですね。
過去に私が担当した腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは第4と第5腰椎の間のヘルニアとの診断だったのですが、症状は腰痛のみでした。
仮に突出したヘルニアが神経に当たっているのであれば、当たっている神経に支配(担当)されている筋力が低下し、同じく感覚が鈍くなるはずです。
ですが、実際問題、筋力低下も感覚低下もない、腰椎椎間板ヘルニアと診断された患者さんはたくさんいる訳です。
ヘルニアの診断を受けているのに症状は腰痛しかない。
そんなパターンの人が非常に多いんですが、そういう時こそ『抜け穴があるかもしれない』と考える様にしています。
実際に私が関わらせて頂いた腰椎椎間板ヘルニアの方に対しては『筋筋膜性腰痛』(筋肉が原因の腰痛)ではないかと考え、腰部を中心にストレッチとマッサージでアプローチをしていた結果、腰痛が軽減しました。
画像所見と症状は必ずしも一致しないという事を知っていたからこその結果、視点だと考えています。
腰部脊柱管狭窄症の画像所見と症状は必ずしも一致しない
腰部脊柱管狭窄症も腰椎椎間板ヘルニアと同様に、画像所見と症状が必ずしも一致しない事も多い疾患です。
参考にして頂きたいHPは↓
過去に私が担当した腰部脊柱管狭窄症の患者さんは明らかに足を引きずりながらリハビリ室に来られました。
たまたま手が空いていた私は主治医の指示通り、温熱療法(ホットパック)の対応をしながら話を聴いてみると『手術を勧められたけれど、拒否した』という事と『とにかく右のお尻が痛い』という訴えがありました。
痺れもなく、脊柱管狭窄症特有の症状である『間欠性跛行』(歩くとお尻~足に痛みが出る→休むと嘘の様に楽になり、動ける→歩くと、また痛みが出る)も認められないという状況に違和感を感じ、主治医の所へ処方箋を持って行き『理学療法をさせて頂けませんか?』と掛け合いました。
理学療法を実施出来る事になり、週に2回、右のお尻周辺の筋肉に対して徹底的にストレッチとマッサージをしました。
結果的に痛みはほぼ消失し、普通に歩ける様になりました。
この当時、脊柱管狭窄症の画像所見と症状が必ずしも一致しないという事は正直知りませんでしたが、間欠性跛行が出ていない事に対する違和感が患者さんにとって、良い結果を生み出してくれました。
年齢を重ねると膝の症状がなくても半月板損傷の有病率が上がる
米国・ボストン医科大学のMartin Englund氏らが50~90歳の外来通院可能な991名を対象に行った調査では、右膝半月板断裂または半月板損傷の有病率は女性50~59歳で19%、男性は70~90歳で56%と大きな幅があり、男女共に加齢に伴いその数が増す事が認められた。
そして、膝手術を受けた履歴のある被験者を除外しても、有病率は大幅に低下する事はなかったそうです。
参考にして頂きたいページは↓
過去に私が担当した左膝半月板損傷の患者さんは独歩可能も荷重時痛(体重がかかると痛い)と夜間時痛の訴えがありました。
主治医の診断は半月板損傷、ただし手術する程ではないと言われているとの事でした。
無症状の半月板損傷が実在するという事と寝る時に膝下に枕を入れると痛みが軽減するという話から、ダメ元で膝を曲げる筋肉であるハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)に対して集中的にストレッチとマッサージを実施しました。
その結果、痛みは消失し、活動量も大きく向上しました。
半月板損傷による痛みではなく、膝を曲げる筋肉が緊張する事で膝を伸ばしていく際にストレッチがかかる事で痛みを出していたのだろうなと解釈しました。
腱板断裂していても痛みを感じていない人がいる
ある村で超音波検査を用い、腱板断裂の有無を調べる集団検診を行った研究があります。
結果は50代で11%、60代で15%、70代で27%、80代では37%に腱板断裂が認められました。
一方、この集団検診で見つかった腱板断裂全体の内、痛みがある村民は35%で残りの65%は偶然断裂が発見されただけでした。
つまり、半数以上は『痛くない腱板断裂』だったとの事。
過去に私が担当した腱板断裂の患者さんは主治医に『このままだといずれ手が上がらなくなるよ』と言われ、手術を勧められていました。
様々な事情から手術をしない選択をし、理学療法を受けるも一向に良くならず、当時私が担当していた患者さんの紹介で来院されました。
来院当初は夜間時痛が激しく、まともに寝れないとの事でしたが、腱板断裂をしていても症状がない人がたくさんいる事は知っていたので、痛みを訴えている肩関節周囲の筋肉に対して軽めのストレッチとマッサージから開始しました。
初めて介入した、その日の夜、はじめてぐっすり寝れたと驚かれていました。
その後も継続的にアプローチし続ける事で肩関節痛は著減、全可動域動く様になり、仕事もバリバリこなせる様になった為、笑顔で理学療法終了となりました。
腱板断裂による痛みではなく、何らかの理由で肩関節周囲の筋肉に負荷がかかった結果、痛みを出していたのだろうと解釈しています。
勘違いしてはいけない事&後輩達に伝えている事
今回はたまたま上手くはまった4例を紹介させて頂きましたが、根本的な問題に関しては何の変化も起こっていません。
画像上は腰椎椎間板ヘルニアも腰部脊柱管狭窄症も変化しませんし、損傷した半月板と腱板は損傷したままでしょう。
ですが、視点を切り替えれば紹介した様な形で改善する可能性があるという事ですね。
実習生や後輩達には『いい意味で医師の診断を疑え』と伝えています。
医師も人間なので判断ミスをする事だってありますし、各専門職が自らの視点でアプローチ方法を考える事で、改善する可能性が上がると考えています。
主治医としての判断、理学療法士としての判断をお互い共有して最適解を探す事が出来ればベストなのかもしれませんね。
結果的に症状が緩和される事で『その人らしい生活』を送る事が出来れば、それで良い訳で、医師の判断が正解、理学療法士としての私の判断が正解といった討論は医療従事者の自己満でしかないと私は思います。
慢性疼痛に対するリハビリテーションについてまとめたブログは↓
まとめ
今回は理学療法士に必要な問題点の捉え方として、諦めずに抜け穴を探し続ける習慣を持つ事が大切だという事をお伝えさせて頂きました。
1人で抜け穴を探し続ける事も出来ますが、出来る限り仲間達と一緒に知識や成功体験を共有し合う事で、より効率的に抜け穴を見つける事が出来るのかもしれません。
それは結果的に『患者ファースト』に繋がっていくのかもしれませんね
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