高齢者の食欲不振の原因の1つ~ポリファーマシーが低栄養やフレイルを作り出す~

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高齢者は多病(マルチモビディティmultimorbidity)である事も多く、結果的に高齢者が増加するとポリファーマシーも増加する事になる。

神戸で開催されたJSPEN2023でもポリファーマシーと食欲不振の関係がシンポジウムとして取り上げられており、医師と薬剤師、管理栄養士等が活発な意見交換を行っていた。

長期的な食欲不振は低栄養、フレイル、サルコペニアに繋がる可能性も高く、低栄養は効率的なリハビリテーション支援を阻害する因子になり得る。

今回はJSPEN2023を振り返りも兼ねて、ポリファーマシーと食欲不振についてまとめておきたい。

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ポリファーマシーとは

厚生労働省が2018年5月に発表した『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』ではポリファーマシーは単に服用する薬剤数が多い事ではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題に繋がる状態。

また、何剤からポリファーマシーとするかについて厳密な定義はなく、患者の病態、生活、環境により適正処方も変化するとしている。

要するに3種類でも相互作用や服用管理で問題が起きれば、ポリファーマシーに該当する可能性があり、10種類でも適切に管理され、病状のコントロールも本人のQOL(quality of life)も良好であれば、ポリファーマシーに該当しないという事になる。

高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)に関しては↓

https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf

そうはいっても、75歳以上の約4割が5種類以上、約1/4が7種類以上の内服薬を1つの薬局から調剤されており、高齢者は多剤服用状態にある場合が多いといえる。

また『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』によると、6種類以上で急性期病院入院患者の薬物有害事象リスク、5種類以上で診療所通院患者の転倒リスクが増加するといった報告があり、5、6種類以上をハイリスク群と考えて処方見直し等の対応考えるべきであろうとしている。

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に関しては↓

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf

また、国立精神・神経医療研究センターによると『服薬アドヒアランス』とは患者がどの程度処方通りに服薬しているかを意味しているそうです。

ポリファーマシーが生じる2つの理由

  1. 多病
  2. 処方カスケード

この2つの理由に関してわかりやすい図が高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)の5ページに載っています。

①に関しては疾患ないし症状ごとに別の医療機関又は診療科を受診していると、それぞれ2、3剤の処方でも足し算的に服用薬が積み重なり、多剤服用、ポリファーマシーとなる可能性がある。

②に関しては薬物有害事象に薬剤で対処し続ける処方カスケードと呼ばれる悪循環に陥る可能性もある。

結果的に複数の医療機関、診療科の受診で起きやすい問題です。

カスケードとは階段状に連続した小さな滝の事で、物事が数珠つなぎに連鎖する様子を表しています。

具体例を挙げてみると、高血圧に処方される降圧剤で足がむくむ副作用が生じる事があります。

むくみに対処しようとして利尿剤を追加すると、尿の回数が増えたり尿酸値が高くなったりする副作用が生じます。

頻尿や高尿酸血症に対処しようとしてまた薬が増えるという事が起こり得る訳ですね。

ポリファーマシーと口腔乾燥症

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015にも記載されていますが、高齢者は加齢に伴う生理的な変化によって、薬物の動態や反応性が一般成人とは異なり、薬物による副作用が高まりやすい。

具体的には加齢による肝臓の機能低下によって、薬物の代謝も低下し、肝臓での代謝率が高い薬物で血中濃度の上昇がみられやすくなる

また、加齢によって腎臓の血流量も低下する為、腎臓から尿へと排泄されにくくなり、血中濃度が増加する。

薬物の副作用の1つとして唾液の分泌量低下に伴う『口渇』があり、口腔乾燥症(ドライマウス)ともいうそうです。

唾液分泌を低下させる薬剤としては降圧薬、抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬、精神安定薬等が挙げられる。

また利尿薬は脱水により口腔乾燥を生じる事もあります。

口腔乾燥症と味覚障害・義歯トラブル

薬物の副作用等、様々な原因から唾液の分泌量が低下し、口腔乾燥症になると、食塊形成(食べ物を飲み込みやすい様に唾液と混ぜながら食べ物の塊を作る)が困難になり、むせやすくなり、口腔機能・嚥下機能を低下させる事に繋がる。

また、味物質を味蕾(舌の表面にある味覚のセンサー)に運搬しづらくなる事から味覚が低下し、食を楽しむ事が困難になる。

味蕾の先端の味孔に味覚受容体があり、ここで味物質が受容体と反応する。

この段階には唾液が必須である。

要するに口腔内が乾燥する事で舌を含め、滑らかな動きが阻害される事で食塊形成に時間がかかり、スムーズな嚥下が行えなくなる。

結果、食事を食べるのに時間を要する為に疲労しやすくなり、食思が低下する事に加え、長時間食事を食べる為に座位を保持したり、嚥下に関する筋活動を伴う事で消費エネルギー量も上がってしまう事になります。

そして、唾液が減少する事により味覚受容体が反応しずらくなり、結果として味覚が低下する事も食思を低下させる要因になります。

更に義歯を使用している場合、特に上顎義歯は唾液による吸着が減少し、義歯に不具合を生じる事がある。

具体的には義歯が落ちて来たり、口腔粘膜の摩擦力が高くなる(擦れやすくなる)事で痛みが出たりする可能性が高まります。

その結果、食べにくさに繋がり、食思が低下する事も考えられます。

薬剤起因性老年症候群

既に紹介させて頂いた様に高齢者は薬物による副作用が出やすく、薬剤起因性老年症候群として表れる事も多い。

薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤に関しては厚生労働省が表としてまとめてくれています(7ページ)↓

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000194792.pdf

表を見て頂けばわかる様に、一般的に痛み止めとして処方される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンの他にも緩下剤、抗不安薬や抗精神病薬といった高齢者がよく処方されている薬物が直接的に食欲低下を引き起こす可能性がある。

同じ様に、睡眠薬や抗うつ薬は便秘を引き起こし、その結果、腹痛、腹部膨満感から食欲が低下してしまう可能性も考えられる。

降圧薬やアレルギー薬である抗ヒスタミン薬、抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド等が抑うつを引き起こし、うつ症状として食欲が低下するだけでなく、抑うつ傾向から活動量が低下した結果、食欲が出なくなる(お腹がすかない)事も考えられる。

まとめ

今回は高齢者の食欲不振の原因の1つとしてポリファーマシーについてまとめてみました。

多くの薬剤を服用する事が多い高齢者は口腔乾燥症に伴う味覚低下、義歯トラブル、薬剤起因性老年症候群等、様々な事が原因で食思不振が生じている可能性がある。

食思不振は低栄養を引き起こし、人は低栄養になると筋肉を分解してエネルギーを作ろうとする為に下肢筋力が低下する事にも繋がります。

理学療法士がリハ栄養を学んだ方が良い理由についてまとめたブログは↓

そういった状況が持続した結果、サルコペニア(筋肉減少症)やフレイル(虚弱)へと繋がっていく事は容易に想像が出来ます。

私自身、リハビリテーションを支援していく専門職として、今でこそ栄養の重要性に気付く事が出来ましたが、気付くまでにはかなりの時間を要しました。

まだまだ栄養に意識が向けられている療法士は少ないと思いますが、薬剤に関しては更に多くの療法士が意識を向けられていない分野ではないかと考えています。

不足している栄養をどの様に補うかを管理栄養士と連携して考える事も大切ですが、同時に薬物が原因で食思不振に陥っている可能性を考え、服薬数はどの程度なのか、減薬や服薬を一時的に止めてみる事は出来るのか等、薬剤師との連携も必要になって来るのではないでしょうか?

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