19年間療法士業界で働いていて今も昔も変わらずに感じている問題が2つあります。
1つ目は療法士(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)の勉強会に関する問題。
療法士業界には勉強意欲がない療法士も一定数いると思いますが、基本的には『人の役に立ちたい』という想いが強く、貴重なお金と時間を使ってまで自分自身を高めようとしている人が多い印象があります。
一方で、以前にもブログ内で書かせて頂きましたが、自己研鑚として勉強会や研修会に投資したお金をどれくらい回収出来ているのかというと、残念ながら回収出来ていない療法士が圧倒的多数ではないでしょうか?
勉強会問題と夫が理学療法士である妻の切実な意見を紹介したブログは↓
2つ目は療法士同士が批判しあっている問題。
異なるアプローチ方法(手技)に対しての批判が特に目立ちますよね。
『●●法なんて時代遅れ』『●●手技は科学的根拠がないらしい』
多くの人はその手技を学んだ事はなく『ただ何となく怪しいから』『考え方があわないから』といった様な理由で批判しあっています。
今後の業界の事を考えると、全ての療法士達が力をあわせてリハビリテーションを支援していかないと後進達の働く環境がより険しくなってしまう可能性もあります。
今回は『勉強会問題』と『手技批判問題』を考える上で、多くの療法士に知っておいて欲しい心理効果をいくつか紹介しておきます。
無意識の内に勉強会の沼にはまっていませんか?~サンクコスト効果~
人にはある対象に費用や時間を費やせば費やすほど、その対象に更にのめり込みやすくなるという心理があります。
心理学用語で『サンクコスト効果』または『コンコルド効果』と言うのですが、要するに『使った時間やお金がもったいない』と感じてしまう心理ですね。
療法士業界の自己研鑚においてもサンクコスト効果は働いている可能性があります。
例えば、あなたはある治療技術の研修会に参加しました。
その技術に魅了され、10万円支払ってコースでの受講を決意。
大満足でコースを受講し終わったあなたに新たな条件が提示されます。
『30万円のコースを受講、試験に合格すれば協会のインストラクター資格が取得出来ます』
そしてこういった一文が添えられたりしています。
『今日受講を決められた方に限り、30万円の受講費を20万円に致します』
↑あくまでも私が考えた展開ですが、療法士業界においてあながち大ハズレでもないとは思います。
コースを受講する為に既に10万円も支払っている事、時間をかなり使った事で『今までの投資(お金や時間)を無駄にしたくない』という心理が働きやすい事が予測されます。
更に新たな条件提示にはサンクコスト効果以外にも『希少性の原理』が働きます。
今日受講を決められた方に『限り』と期間を限定している事、そして30万円の受講費を『20万円に致します』と特典を付ける事で『今決断しないと後悔するかも』と思わせる訳ですね。
療法士業界のセミナービジネスによくあるのがこういった心理を上手く活用した『認定制度』ではないでしょうか?
研修を受け続ける事でランクやクラスが上がり、最終的には『講師』『インストラクター』の称号が与えられるというのが王道のスタイル。
『ここまで頑張って来たのだから』とここでもサンクコスト効果が働いている事になります。
1つ勘違いして頂きたくないのは、自分で働いて稼いだお金ですので、使い方は自由です。
そして療法士として自らを少しでも高める努力をし続ける事は素敵な事だと思っています。
ただ、1度立ち止まって『これ以上投資する意味はあるのだろうか?』と考えてみて欲しいんです。
療法士業界の勉強会費は決して安くはありません。
無意識の内にサンクコスト効果が働いていないか、勉強会の沼にはまっていないかを振り返ってみて下さいね。
療法士同士で手技批判をしあう理由~グランファルーン・テクニック~
療法士業界には様々な治療手技があり、コロナが流行する前は全国各地で治療手技に関する研修会が開催されていました。
そして、私が理学療法士になった時から今も変わらないのが治療手技同士の軋轢。
今となっては対象者が良くなるのであれば、アプローチ方法(手技含む)は何でもいいじゃないかというスタンスなのですが、こういった手技批判には『グランファルーン・テクニック』が関与している可能性があります。
実は人は集団に属する事で、自分の集団をひいきして、他の集団を差別する傾向があります。
この様な心理現象は『内集団ひいき』や『内集団バイアス』と呼ばれ、イギリスの社会心理学者ヘンリー・タジフェル氏によって理論が確立されたそうです。
内集団ひいきの様子がよくわかるのが、TV番組でよく見られる『東京vs大阪』といった図式です。
東京の人は『自分達は上品だけど、大阪の人間は下品だ』とレッテルを貼り、大阪の人は『自分達は他人に親切だけど、東京の人間は冷たい』とレッテルを貼ったりする訳ですね。
この様に、何の繋がりもない群衆に、ほんのわずかな共通点を作る事で一体感を生み出すテクニックを『グランファルーン・テクニック』と言い、療法士業界で治療手技を教えている団体(グループ)でも少なからず活用されていると考えています。
一体感を高める為のポイントは『仲間意識を作る』『共通の敵を作る』
仲間意識を高めるポイントとしては
- 共通点を作る
- 感情を共有する
- Weメッセージを発信する
が大切だそうです。
具体例としては昨年開催されたサッカーW杯がわかりやすいですね。
普段は違うチームを応援しているサポーター達が4年に1度集結して、同じユニフォームを着て、同じ日本代表を応援する。
勝っても負けてもサポーター同士で感情を共有し、日本代表選手達が『サポーターのみんな(Weメッセージ)の応援があったから』とメッセージを発する事でより仲間意識を高めているのかもしれません。
阪神タイガースを筆頭にプロ野球のファンもわかりやすいですよね。
千葉ロッテマリーンズは2005年に背番号『26』を永久欠番(誰にも使わせない背番号)にしているのですが、その理由はファンは『26番目の選手』という意味なのです。
『ベンチに入れるのは25人までだけど、私達はファンと一緒に戦う』という想いが込められているんですね。
千葉ロッテのファンは球界1熱いと言われる背景にもWeメッセージを含めグランファルーン・テクニックが関係しているのかもしれません。
同じ様に、療法士業界の場合は同じ手技を学んでいる、臨床で使っているという『共通点』が仲間意識を高める事に繋がります。
治療手技に関するセミナーでは複数の講師陣で受講生を指導する事が多いですよね。
その結果『受講生に喜んでもらえた』『受講生の満足度が低く、悔しかった』という感情を講師陣で共有する事に繋がります。
更に『個人』ではなく『チーム』(私達)で受講生を指導する事でも仲間意識は高まる事が考えられます。
そしてより強力なのが『共通の敵』を作る事。
チームで他の治療手技を敵視(この手技の方が優れている)したり、批判する事で結束力が高まる訳です。
要するに治療手技団体に属する事で自然と『仲間意識』が高まり、共通の敵を見つけて批判するという形で『内集団ひいき』をしている事になります。
別の捉え方をするならば、外集団(他の治療手技団体)を批判して相手の評価を下げる事で、相対的に自分達(内集団)の評価を上げているのかもしれませんね。
俗に言う『似た者同士は惹かれ合う』『類は友を呼ぶ』を心理学的に解説してみたブログは↓
まとめ
今回は理学療法士業界の勉強会問題と治療手技批判は何故起こるのかについて深掘りしてみました。
19年間理学療法士として働いて来て感じる事ですが、全ての症状や疾患に対応出来る万能なアプローチ方法なんて存在しません。
実在するならばこれだけ多くの手技が入り乱れる事はないはずです。
どんな治療手技にも一長一短があるという事を念頭に置いた上で、療法士同士が建設的な意見交換をでき、お互いの手技を容認しあえる様な環境になれば良いなと思います。
最後に1人の理学療法士として付け加えておきたい事は貴重なお金と時間をつぎ込んで治療手技学び、患者さんに還元する事は尊い事だと考えています。
ただ理学療法士は治療手技を極める事が仕事ではありません。
治療手技や運動療法、環境調整を上手く活用しながら患者さんのリハビリテーションを支援する事が仕事です。
自己研鑚する目的を忘れない様にしたいものですね。
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