理学療法士として18年働き続けている中で、多くの入院患者さんを担当させて頂きましたが、入院すると痩せていく患者さんが多い印象があります
体調を崩した事で一時的に食欲が落ちる事もあれば、病院食が口にあわない為に食事摂取量が減ってしまう事もあります
また、入院する事で活動量が減り、単純にお腹が空かない事もあれば『大して動いてないから、あまり食べなくてもいいだろう』と考えている高齢者もいるかもしれませんね
以前にも紹介させて頂きましたが、日本人の高齢者(65~79歳)を11年間フォローした研究では、やせている人よりも太っている人の方が死亡リスクが低くなる事がわかっています
高齢者は年齢を重ねる毎に太った方がいいという事をまとめたブログは↓
病院から出された食事を全量食べているにも関わらず、体重が増えない、むしろ少しずつ減っている高齢者もよく見かけます
今回は多くの高齢者が痩せやすい理由について改めて考えてみたいと思います
1日に必要なエネルギー量とは?
1日に必要なエネルギーは、その人の『基礎代謝+運動代謝』によって算出されます
基礎代謝は心臓を動かしたり汗をかいたり、呼吸をしたりといった、24時間身体を維持する為に必要なエネルギーです
一方、運動代謝は散歩をしたり仕事をしたり、運動したりといった様に、1日に身体を動かすのに必要なエネルギーの事を言います
通常、基礎代謝は高齢になると筋肉量が減少する事もあり、若い時に比べてかなり低くなります
また運動代謝も若い頃と比較して、活動量が減る事で高齢になるとだいぶ低くなります
では、高齢者は基礎代謝や運動代謝が落ちるにも関わらず、どうして痩せていく事が多いのでしょうか?
病気がある事でエネルギーを消耗する
その理由は、高齢者の場合、基礎代謝に『障害係数』を掛け算する必要があるからです
障害係数とは、簡単に言えば『病気や炎症等によって消耗されているエネルギー』の事
年齢を重ねれば、大抵の高齢者はいくつもの病気を抱えているものですが、その影響で知らない内に結構なエネルギーを消費してしまっているという事ですね
例えば、1番わかりやすい例が『発熱』
入院患者さんは比較的よく発熱しますが、風邪をひいて36.5度から38.5度に熱が上がったとしましょう
体温を1度上げるのに必要なエネルギーは約200kcal、2度で400kcalです
つまり発熱し体温が2度上がっただけで、400kcalのエネルギーを熱に奪われてしまっているという事であり、この場合は本来400kcal分を余計に食べて、奪われた分を取り戻す必要がある訳です
発熱時こそ可能な範囲で食べる(もしくは補う)事が大切という事ですね
他の病気の例を挙げると、例えば慢性心不全や慢性腎不全、肝硬変等の病気があると基礎代謝が2~3割高くなる事がわかっています
エネルギーにすると1日300kcal前後でしょうか
また、タバコの吸い過ぎ等で起こる肺気腫の場合、基礎代謝がなんと1.5倍から2倍になる事もあります
普通の人よりも1000kcalくらい余計に取らないと、体重が維持出来ないという人もいるのです
実際、呼吸機能が低下して酸素を吸っている人はガリガリに痩せている人がほとんどですが、それは痩せる病気だからではなく、食べている以上にたくさんのエネルギーを消耗しているからなのです
同時に食べる時は呼吸リズムが乱れるので、息苦しさが増す事で食べる意欲が低下する人もいます
病院で見落とされがちな所
今までの内容を振り返りつつ、高齢者に多い誤嚥性肺炎になり、数日間高熱でうなされた上に、絶飲食の指示が出た場合を考えてみましょう
肺の炎症により消費エネルギーが増え、高熱により消費エネルギーが増え、あげくの果てには絶飲食で摂取エネルギーは0
あっという間に低栄養になる事は容易に理解出来るのではないでしょうか?
例えるならば、ガソリンを全く入れずに車を走らせ続けているのと同じですね
その結果、自分自身の筋肉を分解してエネルギーを産出する為に著しく筋力低下が進行してしまう訳ですね
肺炎は良くなりました、でも寝たきりになってしまいました
これでは何の為の治療なのかわかりませんよね
病院という場所は『病気を治す』場所ではあるのですが、病気を治す事にだけ意識が向いてしまい、他の部分(栄養や身体能力)が見落とされがちです
更に言うなれば、その部分を担当すべき管理栄養士や療法士が低栄養や医原性サルコペニア(医療が原因の筋肉減少症)に興味がなければ、低栄養は益々加速する事になってしまう訳です
理学療法士と管理栄養士の連携についてまとめたブログは↓
病気を抱える高齢者の食事で注意すべきポイント
高齢者の食の基本は『1にエネルギー、2にたんぱく』
これを合言葉に、毎食美味しく、しっかり食べる事が大切です
1度の食事で量を取れないのであれば、間食したりしながら、摂取エネルギーを増やす事も必要かもしれません
注意して頂きたいのが『お粥』
お粥ではエネルギーが決定的に足りません
普通に炊いたご飯は1膳約200kcalですが、お粥だと半分の約100kcalになってしまいます
量を食べた気分にはなるのですが、水分が多く含まれている分、エネルギーは決して高くないんです
100歳以上の高齢者のタンパク質の摂取量を調べた調査によると、平均的な日本人と比較して、食事に占めるタンパク質の割合が高く、また『総タンパク質に占める動物性のタンパク質の割合が高い』という事がわかっています
元気に長生きする為にも高齢者には肉や魚をたくさん食べて欲しいという事ですね
つまり『年だから』と少食にするのではなく『年だからこそ』たくさん食べて欲しい
高齢者は消費カロリーが増えている可能性が高いので、若者よりも多く食べるくらいでちょうどいいのかもしれませんね
記事内で紹介した内容を非常にわかりやすくまとめてある佐々木淳先生の書籍は超オススメです↓
一般書なので、医療介護従事者でなくてもわかりやすい様に書かれていますし、価格帯も非常にお手頃です
まとめ
今回は病気を抱える高齢者の食事で注意すべきポイントについて深掘りしてみました
高齢者が元気に長生きするにはしっかり食べて、体重を落とさない事
先日、亡くなられたイギリスのエリザベス女王も亡くなられる2日前まで公務をされていましたが、どちらかといえばふっくらされていましたよね(エリザベス女王の場合は社会的な繋がりが多かった事も影響している可能性があります)
高齢者は病気の影響で消費エネルギーが増えている可能性が高いので、思っている以上に食べる必要がある
年齢を重ねると最終的に残る欲は『食べる事』である事が多いです
高齢者だけでなく、私達も年齢を重ねた時に出来るだけ満足した食生活を送れる為に、新しい知識や研究結果に敏感でありたいものですね
コメント