リハビリテーションとは~出来ない理由を探すのではなく、出来る方法を考えよう~

理学療法士
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11月14日と15日にパシフィコ横浜ノースで開催された第32回慢性期医療学会に参加し、人生で初めて学会発表をして来ました。

学会発表するにあたり、抄録の作成、演題の登録、採択後のポスター作成と印刷、法人内での予演会と全ての過程が初めてであり、勉強になりました。

実際に学会で発表をした経験と様々な職種の発表を聴き、質問する中で今一度 『リハビリテーションとは』を考える機会になったので紹介します。

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リハビリテーションへの挑戦~孫の結婚式に参加したい~

私にとって人生初めての学会発表はコロナ渦に入院患者さんと一緒に孫の結婚式に参加した事例報告でした。

研究発表でもない、n数(サンプル数)=1の事例報告は自己満足の域を出ない事は理解していますが、まずはチャレンジしてみる事が大切だと考えました。

理学療法士として、学会発表を通じて多職種に『リハビリテーションとは』を伝えたいという想いもありました。

滋賀県が令和5年に公式LINEを活用して実施したリハビリテーションに関するアンケートが興味深いので紹介します↓

https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5381535.pdf

アンケート結果にもあります様にリハビリテーションという概念は世間一般的には『機能回復』や『運動(訓練)』の事だと認識されていますが、広い意味では『その人らしい生活(生き方)を支援する』関わりと捉える事も出来ます。

理学療法士が実施する理学療法はあくまでもリハビリテーション(その人らしい生活や生き方)を支援する為の1つのツールでしかないんですよね。

そして『理学療法の先にリハビリテーションがあるのではなく、リハビリテーションありきで理学療法を活用する事が大切』だという事を1人でも多くの人に伝えたい、ディスカッションしてみたいという想いもありました。

結果的に思っていた以上に多くの参加者が発表を聴いて下さり、全ての質問に回答する時間が取れない程でした。

自分自身が実践した取り組みに興味を持って下さる人がいるという事、評価して下さる人がいるという事が率直に嬉しく、自信にも繋がりました。

質疑応答を含めて、わずか9分間の学会発表でしたが、2つの気付きがありました。

1つ目は『また発表してみたい』と思う様になりました。

発表当日を迎えるまでの準備は正直大変でしたが、発表を終えるまでに色んな事を学ぶ事ができ、同時に不足している視点にも気付く事が出来ました。

純粋に自分自身の成長に繋がる機会になると感じました。

2つ目はポスター発表の面白さを知る事が出来ました。

正直、私の中にポスター発表より口述発表の方が上という勝手な思い込みがあった事は否めません。

そもそも発表形式に勝ち負けなんてないのですが、実際にポスター発表をしてみて感じた事は聴講者との距離が近く、興味を持って下さった方と関係性を構築しやすいなという事。

そして、ポスターの演題名や内容だけでなく、構成も意識して見る様になった事は大きな気付きでした。

勤務先での予演会では医師を含む、多職種の前でプレゼンテーションをさせて頂きました。

後日、ある看護師から『あの事例があったからこそ、ご家族に外出等を提案する事が増えました』という嬉しい声を頂きました。

あくまでも一事例ではあるのですが、こういった小さな成功体験を病棟スタッフと共有するだけでなく『どうすれば実現出来るのか』を共に考えられるチームを作っていきたいですね。

コロナ渦に参加した結婚式の事についてまとめたブログは↓

食支援を通じたリハビリテーション

慢性期医療学会ではシンポジウムよりも一般演題を中心に回ったのですが、食支援に関する3つの演題が印象に残りました。

1つ目は誤嚥性肺炎を繰り返していた高齢者の『口から食べたい』という想いを支えた歯科衛生士の取り組み。

2つ目は末期心不全高齢者の『大好きなコーラを飲みたい』という想いを支えた管理栄養士の取り組み。

3つ目は看取り期の高齢者に対して、ご家族と連携し『お食い締め』に取り組んだ言語聴覚士の取り組みです。

理学療法士として働く中で、本当に多くの高齢者と関わらせて頂きましたが『食』を楽しみにされている方は非常に多いです。

実際にソニー生命保険株式会社が2024年に全国のシニア(50歳~79歳)の男女1000名に対して実施した現在の楽しみに関する調査でも『旅行』『テレビやドラマ』に次いで『グルメ』が3位になっています。

ソニー生命保険株式会社が実施した調査は↓

シニアの生活意識調査2024
このたび、ソニー生命保険株式会社は、全国のシニア(50 歳~79 歳)の男女に対し、今年で 12 回目となる「シニアの生活意識調査」をインターネットリサーチで実施し、1,000 名の有効サンプルの集計結果を公開しました。

年齢を重ねる中でどうしても身体が思う様に動かなくなり、旅行や趣味活動が行えなくなる事で必然的に『食』の楽しみが大きくなって来るのかもしれませんね。

一方で身体機能が低下するという事は嚥下機能(飲み込む力)も低下している可能性も高くなります。

寝ている時間が長くなると足の筋力が低下するイメージは多くの人が理解出来るかと思いますが、嚥下機能にも筋肉が大きく関与している為に足と同じ様に嚥下に関わる筋力も低下する可能性があります。

要するに年齢を重ねる事で嚥下機能が低下し(正確には歯も影響します)誤嚥しやすくなる事が、高齢者の『食べたい』という想いに蓋をするキッカケになっている現状があります。

その最たる例が2020年にTwitterで業界に賛否両論を巻き起こした株式会社ぐるんとびーの『こんな深夜にラーメンかよ』ではないでしょうか?

こんな深夜にラーメンかよに関しては↓

「僕らは介護施設じゃない」みんなが“ほどほど幸せ”になるために大切にしていることとは?(ぐるんとびー) | KAIGO LEADERS
僕らは介護施設をやりたいんじゃないんです。1人ひとりの"ほどほどの幸せ"を、地域の繋がりを通して実現していきたいんです。 そう話すのは、ぐるんとびーの代表を務める菅原健介さん。 超高齢社会に突入した日本。「どのように老いるのか」は他人事では...

10日前にペースト食で退院してきた96歳の高齢者にラーメンを食べさせるなんて『死んだらどうするんだ』『窒息したら責任は誰がとるんだ』という意見が多かった記憶があります。

私としては、いい意味で『病院の判断を疑う(本当にペースト食なのか?)』事も必要だと思いますし、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こすリスクを本人やご家族にしっかりと説明、理解して頂いた上で『好きな物を食べる』という選択肢があっても良いのではないかと今でも考えています。

慢性期医療学会で印象に残った3演題にも誤嚥性肺炎や窒息を引き起こすリスクはあったはずです。

そのリスクを理解した上で『どうすれば対象者の想いを叶える事が出来るのか』を考えた関わりは、まさにリハビリテーションだなと感じました。

患者さんの想いを叶える為に必要な2つの事

紹介させて頂いた3演題の演者には演題発表後に声を掛け、意見交換をさせて頂きました。

患者さんの想いを支援する中で3者に共通していた事が2つありました。

  1. 医師の理解がある。
  2. 専門職に『何とか叶えてあげたい』という強い想いがある。

1つずつ掘り下げてみましょう。

①医師の理解がある。

私が発表したコロナ渦の結婚式への参加もそうですが、最終的には主治医の了解がなければ患者さんの想いを支援する事は出来ません。

歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士も患者さんの想いを叶える事が出来た背景には『食支援やACP(人生会議)に理解のある医師』の存在をあげていました。

残念ながら『A医師ではなく、B医師なら患者さんの想いを叶える事が出来そうなのに』と感じている医療介護従事者がいるのも事実ではないでしょうか?

②専門職に『何とか叶えてあげたい』という強い想いがある。

話を聴いていて『何とか叶えてあげたい』という強い想いがあるからこそ、どうすれば出来るのかを必死に考えるし、険しい道のりであったとしても簡単には諦めないんだろうなと感じました。

最初から医師に理解がないと諦めるのではなく『どうすれば医師がGOサインを出してくれるだろうか』という視点で考える事も必要なのかもしれませんね。

一方で、医療介護従事者だけで患者さんの想いを支援する方法を考えるのではなく、時には患者さん、ご家族から主治医に対して想い(実現したい事や希望)を伝えてもらう方が医師も改めて考えるキッカケになるのかもしれませんね。

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まとめ

今回、第32回慢性期医療学会に参加し、人生で初めての学会発表、様々な演題発表を聴く中で感じた事を紹介させて頂きました。

学会に参加する事で多くの職種と意見交換させて頂きましたが、基本的にはリスク0の挑戦なんてないと考えています。

食支援やコロナ渦の結婚式参加に限った話ではなく、例えば外泊や自宅復帰にも転倒や骨折のリスクは伴います。

誤嚥するリスクを下げる為には『食べさせない』(正確には食べなくても誤嚥はします)

結婚式参加に伴うコロナ感染、急変のリスクを下げる為には『病院からオンラインで参加する』

自宅復帰後の転倒、骨折のリスクを下げる為には『極力歩かせない』

そういった対応をとる事で多少なりともリスクは下がるかもしれませんが、同時に患者さんの楽しみを奪う事に繋がっているのではないでしょうか?

私を含む医療介護従事者はリスク管理という大義名分を掲げ、患者さんやご家族の選択肢を狭めていないでしょうか?

そのリスク管理は患者さんの為ではなく、医療介護従事者の為のリスク管理になっていないでしょうか?

慢性期医療学会に参加する事で様々な職種が試行錯誤しながら、患者さんの想いを支援している事を知りました。

『その人らしい生活(生き方)』を支える事がリハビリテーション専門職の仕事であるならば、最初から出来ない理由を探すのではなく、どうすれば出来るのかを考える様にしていきたいと改めて感じました。

最後になりましたが、今回の挑戦を後押ししてくれた院長を含めた病院のスタッフと、快く送り出してくれたリハビリテーション科のスタッフに心より感謝致します。

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