コロナ陽性になり、自宅療養→ホテル療養を経験した私にとって、圧倒的に1番苦しかったのは『孤独感』でした
10日間の療養を経験して、感じた事をまとめたブログは↓
苦しみながらも療養を終え、社会復帰した時に感じたのは身体能力(下肢筋力や体力)の低下
理学療法士として、10日間の療養で下肢筋力が低下する事は容易に想像がついていたので、あまり食欲はなくとも出来る限り食べ、無理のない範囲で廊下を歩いたり、室内でも寝ている時間を極力減らす様には心掛けましたが、当然の事ながら身体能力の低下から逃げ切る事は出来ませんでした
現状41歳の私でもここまで身体能力が落ちるのですから、高齢者が10日間も療養していると、より顕著に身体能力が低下しても何ら不思議はありません
今回は自分自身の経験を踏まえながら、高齢者がコロナ陽性となり、自宅で療養する事になった場合の注意点を理学療法士として考えてみたいと思います
フレイルが進行する可能性大
高齢者が療養する事による1番の注意点としてはフレイルの進行ではないでしょうか?
健康長寿ネットによると、フレイルとは英語の『Frailty(フレイルティ)』が語源となっており、日本語に訳すと『虚弱』や『老衰』『脆弱』等を意味します
わかりやすく言えば『加齢により心身が老い衰えた状態』の事ですが、早く介入して対策を行えば、元の健常な状態に戻る可能性もあるとされています
フレイルにはいくつか種類があり
- 『心理的・認知的フレイル』
- 『身体的フレイル』
- 『社会的フレイル』
の他に近年は『オーラルフレイル』も注目されています
オーラルフレイルについてまとめたブログは↓
フレイルが進行しやすい理由
療養において高齢者の心理的・認知的フレイルが進行しやすい理由の1つが孤独感ではないかと考えられます
中国・復旦大学のChun Shen氏と英・University of Cambridge、英・University of Warwickの研究グループは、社会的孤立や孤独と認知症発症の関連を検討する目的で、英国のUK Biobankコホートを対象とした12年間の追跡調査を実施
その結果、社会的孤立は認知症発症リスクを26%高めること、社会的孤立は脳の灰白質量の減少を介して認知症発症に関連することをNeurology(2022年6月8日オンライン版)に報告したそうです
要するに社会的に孤立(社会との繋がりが希薄な状態)していたり、孤独感を感じている人は認知症になりやすいという事ですね
自宅療養にしろ、ホテル療養にせよ長くても10日間程度とはいえ、隔離される事で強い孤独感を感じる可能性がある事と、コロナ渦において、例え療養していなくても長期間にわたって社会的孤立状態(コロナ感染を防ぐ為に外部との接触を最大限減らしている)に陥っている可能性も考えると、心理的・認知的フレイルが進行しやすい環境は整っているのではないでしょうか?
同様に療養したり、社会的孤立状態に陥る事で社会的フレイルも進行する事が予測されます
日本サルコペニア・フレイル学会においても社会的フレイルの定義は定まっていませんが、社会活動への参加や社会的交流が減少している状態と考えてよいと思います
身体が弱る(フレイル)のを防ぐ為に多くの人が実践している事といえば何が思いつきますでしょうか?
定期的な運動(ウォーキング等)が思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか?
実は東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)の飯島勝矢教授らによる大規模の高齢者調査『柏スタディ』によって、興味深い結果が示されています
まず高齢者の活動を
- 『身体活動』(定期的な運動習慣)
- 『文化活動』(囲碁・将棋サークル等に参加し頭を使っている)
- 『ボランティア・地域活動(以後地域活動)』(地域のイベント等、家族以外の付き合いを頻繁にしている)
の3つに分けます
身体活動・文化活動・地域活動の全てを実践している人のフレイルになるリスクを1として、他のグループと比較しているのですが、その結果は非常に興味深いものでした
詳細は↓
まず全ての活動をしていない人のフレイルリスクは全てを実践している人と比べると16.4倍
定期的に運動習慣はあるけど、文化活動と地域活動はしていない人のフレイルリスクは6.4倍に抑えられました
やはり定期的に運動をする事が大切なんだという事が示された訳ですが、興味深い事に定期的な運動習慣はないけれど、文化活動と地域活動は実践している人のフレイルリスクは2.2倍にまで抑えられたのです
要するにフレイル予防には定期的な運動習慣よりも『社会(人)との繋がり』が重要であるという事になります
コロナ渦において『文化活動』や『地域活動』の多くは長期にわたって中止になっている現状を踏まえても、社会的フレイルだけでなく、全般的にフレイルが進行しやすいと言えるのではないでしょうか?
当たり前の事ですが、社会的交流が減っているという事はコミュニケーションの量が減っている事にも繋がると考えられるので、オーラルフレイルになる可能性が高まる事も予測されます
コロナ渦になり運動量は明らかに低下している
最後に身体的フレイルに関してですが、療養期間中の活動量が落ちる事で廃用性筋力低下(使わない事による筋力低下)が生じるのは私の実体験からも明白です
更に倦怠感や咽頭痛といった風邪症状にコロナ特有の味覚障害が加わると、食事量が低下する事で低栄養状態になり、それに伴い下肢筋力が低下する事も考えられます
低栄養になると筋肉量が低下する事をまとめたブログは↓
小柳らは高齢者(男性102名、女性142名)の自粛期間前(2020年3月まで)、自粛中(2020年4月から5月)、自粛解除後(2020年6月以降)の身体活動量を調査した
自粛期間中は自粛前と比較して歩行量が男性で16%、女性で21%程度減少しているという結果となった
またスポーツや運動習慣が男女ともに大きく落ち込んでおり、男性で60%、女性では74%減少している結果となった
さらに運動習慣に関しては自粛解除後も自粛前の水準に戻っていないことが示されたとしている
詳細は↓
現在2022年となり、報告時より2年程度経過しているとはいえ、コロナ渦は変わっていない事に加え、2年間の間に何度も緊急事態宣言等が出る事で自粛が繰り返されて来た事を踏まえると、コロナ流行前と比較して運動量が低下し、身体的フレイルが進行している事が考えられるのではないでしょうか?
独居で孤食よりも同居で孤食の人が死亡率が高い
フレイルとは少々離れますが、東京医科歯科大の研究チームが発表した『高齢者の孤食についての調査』によると『孤食の高齢者は、誰かと一緒に食事をする高齢者よりも死亡リスクが高くなる』ことが明らかになりました
特に興味深かったのは『家族と同居しているけれど孤食』の男性の方が『独居で孤食』の男性よりも死亡リスクが高かったそうです
詳細は↓
個人的に興味深かったのは女性に比べて男性の方が全体的に死亡率が高かった事
前回のブログでも書きましたが、女性と比べて男性の方が孤独を感じやすいのかなと感じました
独居で孤食はある意味致し方ない部分がありますが、同居で孤食となると、より孤独感を強く感じる事が考えられ、その結果、死亡率が高くなっている可能性があります
例え独居であっても、コロナ流行前は時折友達と食事を共にする機会があったかもしれませんが、コロナ渦になり、そういった機会が激減しているとなると、独居の人の孤独感も増しているのかもしれませんね
まとめ
今回は自分自身の経験から、コロナ陽性になった高齢者が自宅療養する際の注意点を考えてみました
1番の注意点としてはフレイルの進行であり、進行の背景には社会的孤立や孤独感、活動量の低下があるのではないでしょうか?
コロナ陽性から自宅療養になり、コロナには打ち勝ったとしても、結果寝たきり状態になってしまうと本末転倒になってしまいます
ですが、療養を経験した者として、実際にそうなってしまっている高齢者がおそらく全国には一定数いると考えています
また、同じ事の繰り返しになりますが、コロナ陽性でなくても、療養していなくてもコロナ渦という環境はフレイルが進行しやすいという事は頭の片隅に入れておいて頂きたいと思います
様々なツールを活用して、
- 出来るだけ社会的な交流を保つ事
- 人が少ない時間帯や場所を選んで出来るだけ運動する(活動量を保つ)事
- しっかりと食べる事
この3つを特に意識しておいて欲しいですね
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