人間が生きていく上で必要な能力の1つがコミュニケーション能力ではないでしょうか?
対人援助職である理学療法士は患者さんやご家族だけでなく、多職種ともコミュニケーションを通じて信頼関係を構築していく必要がある職業です
療法士を目指す学生達にとっても臨床実習に向けてコミュニケーション能力を高めておいた方が良いという事は少し前の記事でも取り上げました
逆に臨床実習における実習生のコミュニケーション能力に対する教育者の思い込みに関してもまとめました
今回は具体的にコミュニケーション能力を高める3つのポイントを心理学的に紹介していこうと思います
学ぶだけではコミュニケーション能力は向上しない
大前提として最初に1つ大切な事をお伝えしておきます
紹介する3つのポイントを学んだだけでは『絶対に』コミュニケーション能力は向上しません
コミュニケーション能力を向上させる為には学んだ上で『場数を踏む事』が必要になります
学んだ事(インプット)を記憶に定着させる為には誰かに教えたり、実践する事(アウトプット)が必須だという事は覚えておいて下さい
アウトプットの重要性が一目でわかるラーニングピラミッドについて紹介した記事は↓
記憶の定着やアウトプットについて学びたい人に自信を持ってオススメ出来る書籍は↓
親密化過程とは?
それでは3つのポイントについて紹介していきます
心理学には『親密化過程』という人と人とが親密になっていく5つのステップがあります
- 初頭効果
- 単純接触効果
- 共通項・類似性の原理
- 相補性の原理
- 自己開示
必ずしもこの順番通りにする必要はないと考えていますが④相補性の原理だけは相互理解が深まってからでないと使えないと思います
今回は5つのステップの内の初頭効果・単純接触効果・自己開示について紹介します
初頭効果とは?
要するに第一印象の事ですが、非常に重要なポイントで第一印象がその後の印象を左右するといっても過言ではありません
話し方、話す内容等も大切ですが、見た目も大きく影響して来ます
初頭効果に関してはポーランド出身のゲシュタルト心理学者ソロモン・アッシュが印象形成に関する研究実験を行っています
アッシュは全く同じ特性を持った2人のキャラクター(AさんとBさん)を用意して、被験者に提示して受ける印象を調べました
知的・勤勉・衝動的・批判的・頑固・嫉妬深い
この6つの特性以外で印象が判断されない様に、写真や声、出身等、他の情報は一切提示していません
唯一違ったのは、この2人のキャラクターの印象を紹介する順番を逆にした事です
Aさんは知的→勤勉→衝動的→批判的→頑固→嫉妬深いの順番で、Bさんは嫉妬深い→頑固→批判的→衝動的→勤勉→知的の順番で提示しました
その結果、提示する順番を変えただけなのに、被験者はAさんに対しては良い印象、Bさんに対しては悪い印象を抱いたのです
つまり、最初の印象(第一印象)に引きずられた可能性があるという事ですね
第一印象として相手に良い印象を持ってもらう事で良好なコミュニケーションに繋げていきましょう
単純接触効果とは?
単純接触効果、またの名をザイアンスの法則とも言います
人は接触する機会が増えれば増える程、対象に対して好感を抱きやすくなるという心理効果です
例えば対象が人の場合、接触する方法は何でもよく、直接会う以外にも、SNS、電話、手紙、写真等でもOKです
ちなみに対象は人以外でも同様で、音楽やイラスト、商品に対しても効果的に働きます
ただし大切なポイントとして、第一印象が悪くない事、そして『接触時間』よりも『接触回数』の方が重要だという事ですね
要するに週に1回1時間接触するよりも、週に5回5分(1回1分)接触する方が効果的だという事になります
単純接触効果は、心理学者ロバート・ザイオンスによって発見されました
ザイオンスは被験者に見知らぬ人の顔写真を見せる実験をして、被験者が顔写真を見る回数を0回から最大25回まで変えました
実験の後に顔写真に対する好感度を調査した所、提示回数が多かった顔写真の好感度が高いという結果が出たそうです
また対象を顔写真だけでなく、トルコ語を知らない人にトルコ語を使って同様の実験もされており、提示回数の多い単語ほど好感度が上がっていました
まずは少しだけでも良いので声を掛ける(接触する)事から始めてみる
その積み重ねが、好感度を上げる事に繋がり、良好なコミュニケーションへと繋がっていくのではないでしょうか?
自己開示とは?
共通項・類似性の原理よりも先に自己開示について紹介しておきます
自己開示とは、自分のプライベートな情報を相手に話す事
自分の生い立ちや趣味を話題にしたり、過去の失敗を打ち明ける、自分の想いや意見を正直に話す等が自己開示にあたります
自ら自己開示をする事で『返報性の法則』が働きやすくなります
返報性の法則とは?
返報性の法則には
- 『好意の返報性』
- 『敵意(悪意)の返報性』
- 『譲渡の返報性』
- 『自己開示の返報性』
の4つのタイプがあります
好意を受けると好意を返したくなるのが『好意の返報性』
単純にわかりやすいのがバレンタインデー
女性からチョコをもらった(好意)男性はホワイトデーに何かお返し(好意を返す)をしなければという心理が働きますよね
他にもコンビニでトイレを借りたら『1つくらい商品買おうかな』と思う心理
スーパーの試食品コーナーで試食した時に『少しくらい買おうかな』と感じる心理も好意の返報性ですね
もう1つ個人的に好きなのがチップに関する実験
日本ではあまりピンと来ないシチュエーションかもしれませんが、海外のレストランでは会計伝票と一緒にキャンディ等が渡される事があるそうです
ロバート・チャルディニー博士によると、キャンディなしで会計伝票が渡された場合、食事客は受けたサービスに見合ったチップを払うそうです
しかしキャンディが1つあれば、チップの額は3.3%も上昇、キャンディを2つにすると、何と20%上昇します
では3つ目のキャンディを使ってより多くのチップを頂く為にはどうすれば良いと思いますか?
普通に渡すキャンディを3つにしてもチップは増えるのですが、より効果が大きかった方法は予め伝票と一緒に2つのキャンディを渡しておき、テーブルからいったん離れてから、ハッと気付いた様に戻って来て、小さな声で『お客様だけですよ』と言って渡せば、チップの額が大きく増えたそうです
チップが増えた理由を心理学的に考えるならば、返報性の法則だけでなく、希少価値効果(特別感を感じてもらう)やカリギュラ効果(秘密の共有)も関与しているのかもしれませんね
同じ様にイヤな事をされるとやり返したくなるのが『敵意の返報性』
大ヒットドラマ半沢直樹の『倍返しだ』も敵意の返報性にあたるのではないでしょうか?
『譲渡の返報性』は『相手が譲ってくれたのだから、自分も譲ってあげよう』という心理
例えば、電車に乗った時に席が1つ空いていたとしましょう
座ろうと思い席に向かうと、もう1人座ろうとしていた人がいて『どうぞ』と言われると『いえいえ、あなたこそどうぞ』と譲り返したくなりませんか?
これが譲歩の返報性です
いわゆるダチョウ倶楽部的な展開もこれにあたるのかもしれません笑
相手から受けた恩を返したいという意味では、好意の返報性に近い部分があると思います
コミュニケーションにおいて、自ら自己開示する事で相手も自己開示しやすくなる心理が『自己開示の返報性』
例えば私の場合であれば『臨床実習不合格』という経験をオープンにしてから、同じ様な経験者や臨床実習に違和感を感じている人との繋がりが格段に増えました
小学校高学年や中学生の頃に『俺の好きな人教えるから、お前も教えろよ』といった話を仲の良い友達とした経験はありませんか?
これも1つの『自己開示の返報性』にあたるのかもしれませんね
大切な事は『自己開示の返報性』を利用して引き出した情報を活かして、どの様に次のコミュニケーションや関係性構築に繋げていくかではないでしょうか?
その為のポイントが『共通項・類似性の原理』や『相補性の原理』にあると私自身は考えています
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とっつきにくいイメージが強い心理学ですが、初心者にも非常にわかりやすく、面白くまとまっていると思います
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私が心理学を学ぶキッカケになった本は↓
治療家向けの本であり、心理効果や様々なデータが詳しく書かれている訳ではありませんが、専門家として患者さんに信頼してもらう為のテクニックが色々と紹介されています
個人的には堅苦しい心理学ではなく、明日からでも即臨床やプライベートで使える心理学を学び、紹介していきたいなと思っています
まとめ
今回はコミュニケーション能力向上に繋がる3つのポイントとして、親密化過程の中から初頭効果・単純接触効果・自己開示について掘り下げてみました
1つ1つは当たり前の事かもしれませんが、改めてまとめてみる事で自分自身にとっても良い振り返りになりました
引き続きコミュニケーションと心理学を絡めた記事を書いていきますので、少しでもコミュニケーションに悩んでいる人の参考になれば幸いです
共通項・類似性の原理と相補性の原理を紹介した、この記事の続編は↓
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