口腔機能の低下と入れ歯の問題がオーラルフレイルと低栄養に繋がる

理学療法士
スポンサーリンク

フレイルという言葉(概念)を耳にした事がある医療介護従事者はそれなりに増えて来たのではないでしょうか?

健康長寿ネットによると、フレイルという言葉は『Frailty(フレイルティ)』が語源となっており、日本語に訳すと『虚弱』や『老衰』『脆弱』等を意味します

日本老年医学会は高齢者において起こりやすい『Frailty』に対し、正しく介入すれば戻るという意味がある事(不可逆性がある事)を強調したかった為、多くの議論の末『フレイル』と共通した日本語訳にする事を2014年5月に提唱したそうです

フレイルの種類として

  • 身体的フレイル
  • 心理的・認知的フレイル
  • 社会的フレイル

の3つがよく紹介されていますが、もう1つ身体的フレイルを引き起こす要因として口腔機能低下に着目した『オーラルフレイル』があります

フレイルの種類とフレイルサイクルに関しては↓

https://www.kampoyubi.jp/learn/flail/pdf/f01.pdf?date=1595980800058

今回はオーラルフレイルに焦点を当て、学んだ事、理学療法士として感じている事をまとめる事で、少しでも多くの医療介護従事者がオーラルフレイルについて知る機会になれば幸いです

スポンサーリンク

オーラルフレイルの定義

オーラルフレイルの定義ですが、日本歯科医師会が出している『歯科診療所における オーラルフレイル対応マニュアル2019年版』によると

『老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繫がる一連の現象及び過程』

としています

オーラルフレイルは身体的フレイルやサルコペニアにも影響する

口腔機能の低下が生じると食事摂取量に悪影響を及ぼし、フレイルや低栄養に繋がる事は容易に想像出来ます

一方で、口腔機能に関しては、同じリハビリテーション専門職であるST(言語聴覚士)にお任せ状態で、正直意識して関わっている理学療法士は少ないのではないでしょうか?

恥ずかしながら、私自身もオーラルフレイルが身体的フレイルやサルコぺニアにも大きく影響する事をここ数年でようやく知りました

千葉県柏市で高齢者2044人を対象に実施された調査ではオーラルフレイルの人は、年齢や病気等、多くの要因の影響を考慮しても、オーラルフレイルでない人と比べて、身体的フレイルが2.4倍、サルコぺニアが2.1倍、要介護認定が2.4倍、総死亡が2.1倍とどれも約2倍もリスクが高い事がわかっています

調査結果も示されているオーラルフレイル対応マニュアル2019年版は↓

https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/pdf/manual_sec_01.pdf

オーラルフレイルの原因~加齢と廃用と入れ歯不適合~

では何故、オーラルフレイルは生じるのでしょうか?

原因に関しては

  • 加齢廃用
  • 低栄養
  • 入れ歯不適合
  • 歯の喪失

等、色々と考えられると思います

例えば、加齢による筋力低下、長期臥床や活動量の低下に伴う廃用性筋力低下は全身に生じます

どうしても移動能力に直結する下肢筋力に意識が向きがちですが、下肢筋力が低下している場合、嚥下に関する筋肉(嚥下筋)も口の周りの筋肉(口腔周囲筋)ももれなく低下している事が予測されます

嚥下筋力が低下する事で、食事摂取量が低下したり、食事形態を下げる事で低栄養に繋がる可能性があります

常食(通常の食事)と比較してお粥となると、かなり水気が多くなる事がイメージ出来るかと思います

その結果、摂取エネルギー量は低下する事に繋がるんですよね

口腔周囲筋が筋力低下を起こすと、咀嚼力(噛む力)が低下するだけでなく、入れ歯が不安定になる可能性が出て来ます

咀嚼力が低下すると硬い物が食べられなくなります

その結果、食べやすい物しか食べられなくなり(硬い物を避ける)、更に咀嚼力が低下するだけでなく、食品の多様性が低下する(食べられる物が限られて来る)事で食に対する興味が低下する可能性もあります

入れ歯が不安定になると、咀嚼力が低下するだけでなく、痛みが出て来る事も考えられます

痛みがある事で痛くない様に食べようとする為に他の部分(口腔周囲筋等)に負担がかかる事になり、その結果、痛いだけでなく、筋肉を過剰に使う事で疲れやすくなる事にも繋がります

こういった場合、入れ歯を使用せずに食事を摂取するという選択肢もありますが、当然ながら満足には噛めない為に食事形態を下げる事に繋がり、やはり低栄養に繋がる可能性があります

オーラルフレイルの原因~低栄養~

厚生労働省が出している『平成26年国民健康・栄養調査報告』によると、その当時で65歳以上で低栄養傾向(BMI20以下)にある高齢者は17.8%であり、10年間大きな変化はないものの、高齢者数が増えていく現状から考えると、全体的に低栄養傾向にある高齢者は増えているとみられるとしています

以前別の記事でも取り上げましたが

低栄養状態(摂取エネルギー量より消費エネルギー量が大きい)が続くと、人は筋肉を分解してエネルギーを生み出そうとします

その結果、嚥下筋や口腔周囲筋の筋力が低下する事に繋がり、その後の展開は既に述べて来た通りです

オーラルフレイルの原因~歯の喪失~

例えば男性が定年退職した事がキッカケでオーラルフレイルに繋がる可能性もあります

今まではバリバリ営業として多くの人と話したり、活発に動き回っていた人が急に仕事を失う事で、喋る機会と活動量は確実に低下します

話す機会が減る事で口腔周囲筋が廃用を起こしやすくなるだけでなく、人と会う機会が減る事で口腔機能に対する関心が低下する可能性も出て来ます

その結果、虫歯や歯周病が悪化し、仕事だけでなく歯も失うという事にも繋がります

自分自身の歯を失う事で見た目が気になり、思う存分笑えなくなったり、滑舌が低下する可能性もあります

その結果、他者との交流が減少する事で『社会的フレイル』になり、活動量が低下する事で『身体的フレイル』にも波及していく事にもなる訳ですね

オーラルフレイルはフレイルサイクルのトリガーになる

↑の可愛いイラストは言語聴覚士のmaeちゃんのHPより使用させて頂いています

https://maemae-st.com/

今までの話をまとめると、口腔機能の低下や入れ歯問題を含め、様々な理由が発端で生じるオーラルフレイルはフレイルサイクルが回りだすトリガー(引き金)になる可能性があります

フレイルサイクルに関しては最初に共有したリンク(フレイルの種類等)内にある図を参考にして頂けると理解しやすいですが、

オーラルフレイルによって食事摂取量が低下する→慢性的な低栄養→サルコペニア→筋力低下→身体機能の低下→活動量の減少→エネルギー消費量の減少(お腹が空かない)→食事摂取量の低下というサイクルが延々と回り続ける事になります

今はオーラルフレイル→食事摂取量の低下と結びつけましたが、オーラルフレイル→(社会的フレイルに伴う)活動量の低下でフレイルサイクルが回りだす可能性も充分あるのではないでしょうか?

まとめ

今回は口腔機能の低下と入れ歯の問題を中心にオーラルフレイルについて考えてみました

学べば学ぶ程、病院や施設にも歯科衛生士を配置した方が良いのではないかと感じましたし、歯科医師や言語聴覚士、管理栄養士との連携も必要だなと改めて認識する事になりました

この記事を通じて、頭の中は少し整理出来ましたが、実際問題入れ歯があってる、あってないという評価を私自身が出来るかといえば、そうではありません

まずは問題に気付く事、知ろうとする事、学ぶ事、周囲に伝える事が大切

多職種の力も借りながら、焦らず一歩ずつ前に進んでいこうと思っています

患者さんや利用者さんの『食べたい』という希望を、ご家族の『食べさせてあげたい』という願望を少しでも実現したいですし、その事が『リハビリテーション』に繋がると私自身は考えています

コメント

タイトルとURLをコピーしました